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2022.11.23 08:00

【防衛力強化】足りていない国民的論議

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 防衛力の強化策を検討していた政府の有識者会議が報告書をまとめ、岸田文雄首相に提出した。
 抑止力向上に向け敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を「不可欠」とするなど、5年以内に防衛力を抜本的に強化するよう求める内容だ。不足する財源確保のため事実上の増税も提起した。
 日本の安全保障環境は確かに緊張を増している。ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出や台湾問題などを見ても厳しい。
 ただ日本は第2次世界大戦を教訓に憲法で戦争を放棄した。自衛隊も「専守防衛」が国是である。その点、報告書は全体的に前のめりな印象が拭えない。
 備えはどこまで認められるのか、国民がどこまで望むのか。抜本的な強化の前に、抜本的な国民的論議が欠かせない。
 現状は論議が足りていないのに、安全保障法制が強化され、防衛予算の増額も続いている。今回の報告書はそうした流れをさらに加速させかねない。
 敵基地攻撃能力は自衛目的で相手領域内のミサイル発射基地などを破壊するものだ。報告書はその能力を具体的に担保するものとして、今後5年を念頭に「できる限り早期に十分な数のミサイルを装備すべきである」とした。
 以前から指摘されているように、自衛のための敵基地攻撃は簡単ではない。浜田靖一防衛相は発動要件について国会で「いかなる場合であっても必要最小限度の実力行使にとどまる」との考えを述べている。
 しかし相手の動きを読み違えれば自衛ではなく、先制攻撃になりかねない。「必要最小限度の実力行使」とは何かも曖昧で、想定が膨らんでいく危険がある。こうした重要な問題について報告書は「政府レベルの関与の在り方について議論が必要」としたにすぎない。
 防衛力強化には宇宙、サイバー、人工知能などの研究開発が欠かせないとして、政府と大学、民間が一体となった研究開発の早急な仕組みづくりも求めた。戦後、科学者が距離を置いてきた軍学共同も前提にしている。
 財源論では国民全体に当事者意識を持たせ、財源を「世代全体で分かち合っていくべきである」「負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要」とした。
 歳出改革を優先し、国債に依存しないようには求めているが、高齢化が進む日本では社会保障費が増え続けている。政府は膨大な借金を抱えている。防衛力強化のための増税は受け入れられるのか。
 政府は報告書を踏まえ、近く外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」を改定する考えだ。岸田首相は「重要なアドバイスだ。与党と調整しながら検討を進める」としている。
 防衛の在り方が拙速に変化するのは避けなければならない。慎重に議論を重ねる必要がある。

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