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2022.11.09 08:00

【科学の軍事転用】学術界への「圧力」やめよ

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 政府が、大学や民間が持つ最先端技術の安全保障分野への転用に、前のめりな姿勢を見せている。2024年度にも防衛装備庁に新たな研究機関を創設するほか、国家安全保障局(NSS)が関与する新たな会議体を設ける方針を固めた。
 軍事・民生の両面で利用可能な「デュアルユース」技術の開発競争は米欧や中国、ロシアなどで激化している。安全保障環境が厳しさを増す中、防衛力の強化を急ぐ思惑なのだろう。
 だが、日本の学術界は過去の戦争協力への反省から、軍事研究と距離を取ってきた経緯がある。なし崩し的に学術界を巻き込み、学問の自由や独立を政府がゆがめることがあってはならない。
 防衛装備庁に設ける新たな研究機関は、衛星利用測位システム(GPS)など多くの開発をけん引した米国の国防高等研究計画局(DARPA=ダーパ)を念頭に、人工知能(AI)や無人機などの技術に照準を合わせる。大学や企業の研究を基礎段階から把握し、資金面の支援などを通じて実用化を後押し。防衛産業との橋渡し役も担うという。
 NSSが関与する新たな会議体は関係省庁が加わり、取り組みの遅れが指摘される先端科学技術の防衛利用を縦割りを廃して急ぐ。見過ごせないのは研究者らが参画し、科学技術政策の司令塔となっている「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」を巻き込む点だ。
 戦後の学術界には、先の戦争で多くの研究者が軍事開発に協力した教訓から、軍事研究を忌避する意識が根強い。「学者の国会」ともいわれる日本学術会議は1950年と67年に「戦争目的の科学研究には今後絶対に従わない」とする声明を打ち出している。学術界の原点、矜持(きょうじ)といってよい。
 この軍民分離の理念に対し、政府はその垣根を取り払おうと図ってきた。2015年度には、軍事に応用可能な基礎研究を費用助成する「安全保障技術研究推進制度」を創設している。政府には各国の兵器や通信技術が高度化する現状に、国主導の研究開発だけでは追随できないとの焦りがあるのだろう。
 新たな研究機関や会議体に、研究者を軍事協力へ取り込み、先端技術の軍事利用を加速させる狙いがあるのは明らかだ。こうした手法は強引に過ぎるのではないか。政府は近年、国立大学への運営費交付金などを絞り続け、研究費の確保に悩む研究者も多い。そこに資金提供をちらつかせ、協力を迫る姿勢は学術界への「圧力」にほかならない。
 学術会議は今年7月、デュアルユース技術の研究を事実上、容認する見解を公表し、学問と軍事が結びつく危うさは増しているといわざるを得ない。学術界全体として、戦前と同じ轍(てつ)を踏まないよう、改めて議論を深める必要がある。
 学問の自由は、憲法に明記された権利だ。政府は学術界の理念と研究者の自律性を尊重し、慎重に対応しなければならない。

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