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2022.11.02 05:00

【穀物輸出の危機】露は食料を手札にするな

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 黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出再開に関するウクライナ、トルコ、国連との4者合意について、ロシア政府が履行を停止すると発表した。戦闘での劣勢が伝えられるなか、食料を「人質」に国際社会へ揺さぶりを掛けてきた格好だ。
 再び輸出が停滞して食料価格が高騰すれば、食料を輸入に頼る中東やアフリカの諸国が深刻な食料危機に陥りかねない。人道的に許されざる対応だ。合意の通り、航路の安全を確保しなければならない。
 近年、世界の食料事情は厳しさを増している。世界食糧計画(WFP)は、2021年時点で最大8億2800万人が飢餓状態にあると推計する。
 そこに、ロシアによるウクライナ侵攻が重なり、食料価格の高騰に拍車をかけた。侵攻に踏み切った2月以降、ロシアは黒海を封鎖し、世界有数の穀物輸出国であるウクライナからの供給が滞った。
 ウクライナ産穀物への依存度が高い国々などで食料危機への懸念が高まり、国連とトルコが仲介する形で両国は7月、穀物輸出を再開する枠組みで合意。輸出船に武器や兵士を積んでいないかを4者共同で検査することを条件に、8月以降は小麦やトウモロコシなど計900万トンがウクライナから輸出された。
 合意の履行停止により、ロシアは無期限に、輸出に関わる民間船の安全な航行を保証しないとする。貧困国などにつながる、「人道回廊」の扉を一方的に閉鎖する行為といってよい。
 ロシアは、実効支配するクリミア半島の黒海艦隊にウクライナ軍の攻撃があり、穀物輸出に使う航路の安全を脅かされたと主張している。真偽は不明だが、約束をほごにする口実にすぎまい。
 4者合意の期限切れとなる11月19日を前にした延長交渉のなかで、合意の見返りとして国連に求めていたロシア産穀物や肥料の輸出が進んでいない状況に強い不満を示していたという。4者合意を、ウクライナ側だけに利すると判断した可能性が指摘される。
 さらに合意以降、戦況が思わしくないことにもいら立ちを募らせていよう。制圧したウクライナ東部・南部の4州で親ロシア派が「住民投票」を強行し、プーチン大統領が4州の併合を一方的に宣言した。
 ただ、実際はウクライナ側に押し返され、占領地域の維持が難しい状況になっている。併合を急いだ背景には国内外の苦境に対する焦りが透けて見える。今度は食料をも戦争や交渉の「カード」とする狙いなのだろう。
 戦争による悲劇は、戦闘による直接的な被害だけではない。飢餓状態が各地で深刻になれば、緊張が飛び火して国際情勢を一層不安定にする恐れも出てくる。人道危機の拡大回避へスピード感のある対応が重要になってこよう。
 ウクライナ危機が長引くほどリスクは膨らむ。合意の再構築、停戦に向けた国際社会の結束が問われる。

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