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2022.10.31 08:00

【事件記録の廃棄】検証困難にした責任重い

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 「公文書」の価値に対する認識が高まる中、信じがたい取り扱いだ。神戸市須磨区で1997年に起きた連続児童殺傷事件など複数の重大少年事件に関して、各地の家裁が事件の全記録を廃棄していた。
 プライバシーに関わる部分などは公開される可能性が低いとはいえ、将来的な検証をも難しくした責任は極めて重い。司法への国民の信頼を損なう事態である。再発防止のためにも、廃棄の経緯を徹底的に調査する必要がある。
 記録が廃棄された重大事件の中でも、神戸市の連続児童殺傷事件は残虐さや加害少年が14歳だったことから、社会に大きな衝撃を与えた。この後、少年法が改正され、刑罰の対象年齢は16歳以上から14歳以上に引き下げられている。現在までつながる少年事件の厳罰化で、重大な節目になった事件といえる。
 少年事件の審判は非公開で、当時は被害者の遺族らも傍聴できなかった。神戸家裁は審判の決定要旨を公表したものの、真相の全てが公になったわけではない。
 廃棄された記録には、加害少年が捜査時に語った供述調書や、心理的な状態を記録した精神鑑定の結果などが含まれていたとみられる。事件の歴史的な重要性はもとより、教育や家庭の在り方などを考える上でも史料的な価値は高い。
 加害少年は医療(第3種)少年院を本退院した後、2015年に手記を出版して物議を醸したが、記録の廃棄はその一方的な主張を検証することさえ極めて困難にした。
 事件記録は、「国民共有の知的資源」とされる公文書といってよい。当然、定められた基準にのっとって厳正に管理されるべきだ。
 最高裁の内規では一般的な少年事件の場合、捜査書類や審判記録は加害少年が26歳になるまで保存すると規定している。この事件では08年になるが、事件処理システムのデータでは11年2月に廃棄されていた。
 ただ、1992年の通達で重大事件については事実上、永久保存が義務付けられている。「特別保存」と呼ばれ、具体的には世相を反映した事件で史料的価値が高いもの、全国的に社会の耳目を集めた事件、少年事件に関する調査研究の重要な参考資料になる事件―などが対象になっている。
 神戸の事件だけでなく、廃棄された記録の中にはこの基準に該当するとみられる事件が複数ある。最終的な判断は裁判所の所長に委ねられるとはいえ、廃棄が通達の趣旨に反していたのは明らかだ。
 各地の家裁で廃棄が判明したことからいっても、特別保存の仕組みが十分に機能していたとはいいがたい。管理そのもののずさんさは否めないだろう。
 最高裁は、特別保存の運用が適切だったかどうか、弁護士らによる有識者委員会で検証し、詳しい調査の必要性を含めた今後の方針を決めるという。廃棄に至った問題点を徹底的に明らかにし、再発を防止する姿勢を示さなければならない。

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