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2022.10.29 08:40

「聞こえていても、聞き取れない」 聴覚情報処理障害を知ってほしい 【なるほど!こうち取材班 パートナー紙とともに】

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雑音環境で会話困難に 当事者孤立 周囲が支援を 
APDの当事者が周囲に配慮を求める時に使えるよう情報をまとめた名刺サイズの支援カード。研究者や学生が制作し、無料で公開している(「APDマーク」のウェブサイトより)

APDの当事者が周囲に配慮を求める時に使えるよう情報をまとめた名刺サイズの支援カード。研究者や学生が制作し、無料で公開している(「APDマーク」のウェブサイトより)

 聴力検査は異常なし。聞こえているのに、相手の言葉を聞き取れない―。そんな症状を「聴覚情報処理障害(APD)」と呼ぶ。近畿でAPD当事者会を主宰する男性(39)=大阪府=が、愛媛新聞「真相追求 みんなの特報班」に「症状は『見える化』しにくく、名称だけでも広く知ってもらいたい。愛媛には詳しい研究者もいます」と情報を寄せてくれた。医療者にもまだ浸透していないという症状や対処法について調べてみた。

「相談できなかった」
 APDは、聴力とは別に脳の機能になんらかの問題が生じている状態とされるが、まだ研究段階で診断基準や治療法は確立されていない。

 例えば「子どもなら教室、大人なら居酒屋など、複雑に音がまざる場所で相手が何を言っているか分からない」「複数人との会話だと、誰が何を話しているのか分かりにくい」。対処法は、雑音処理機能付きの補聴器の使用や、静かな場所で話をすることなどが有効という。

 大阪府の男性は、中学生の頃から相手の言葉が聞き取れず「薄いベール越しに話しているような違和感」を抱えていたと話す。先行して活動していた関東圏の当事者会と連携し、同じように悩み、症状を抱える人が情報を共有しながら支え合う場所をつくろうと、3年前に「近畿APD当事者会」を立ち上げた。

 対面やオンラインの研修会には、20~40代を中心にこれまで約700人が参加。中学生や80代もいて、幅広い世代の関心が高まっていると感じている。

 その中に、南予在住の40代の女性がいた。メール取材をお願いすると「APDで困っている人のことを知ってもらうきっかけになれば」と応じてくれた。

 女性はツイッターで同会を知り、自身の症状を認識して「上司や初対面の人に症状について説明できるようになった」という。小学生の頃から自覚症状があったが「耳が聞こえるのに単語や文章を明確に聞き取れないという症状を、どう説明すればいいのか分からず、誰にも相談できなかった」と振り返る。

 女性は関連するウェブサイトの症状例を参考に、調理師として働く職場で「聞き取りが苦手なので何度も聞き返す可能性がある」などと事前に伝え、指示を文書で受け取ったり、単語の明確な発音やゆっくり話したりしてもらえるよう協力を依頼。少しでも円滑にコミュニケーションを取れるように工夫している。

「早期発見が必要」
 愛媛大医学部の寺岡正人医師(46)によると、APDは4年ほど前から一般でも認知が広がり、県内のクリニックからの紹介で年に数人のAPD疑いの患者を診察している。

 ただ、発達障害が要因とされるケースも含まれるため、耳鼻科医だけの判断で原因を見つけるのは難しいという。「同じような症状は、加齢性や心因性、神経の機能障害に関する難聴の可能性もある」とし、まずはクリニックでの聴力検査を勧めている。

 寺岡医師と連携し、県内のAPD疑いの患者相談に応じている同大教育学部の立入哉(はじめ)教授(59)は、特に子どもに関して「早期発見、対処が必要だ」と注意を促す。

 学校の聴力検査は、静かな場所で「ピー」というシンプルな音が聞こえているかが基準で、雑音環境で音の内容や方向を認識できるかを自覚するきっかけがない。教室での聞き取りが困難な場合、学習のつまずきの要因になり「適切な支援や配慮が受けられない」と危惧。左右それぞれの聞き取る力を測るアプリを開発し、周知に努めている。

 今回取材した当事者は、それぞれ子どもの頃から違和感を抱えながら「自分を責めることしかできなかった」と明かした。周囲に知識があれば、環境や伝え方を少し変えるだけで改善できるケースもある。投稿してくれた男性は「APDの認知度はまだ低く、当事者は周囲の理解が得られないまま孤立してしまう。少しでも多くの人に知ってほしい」と願っている。(愛媛新聞)


 県民・読者とつくる調査報道企画、高知新聞「なるほど!こうち取材班」(なるこ取材班)。県内企画のほか、連携する全国のパートナー紙の記事を随時掲載で紹介します。

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