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2022.10.17 08:00

【通園バス対策】事件の背景にも向き合え

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 静岡県内の認定こども園の通園バスで、園児が置き去りにされて亡くなった事件を受け、政府が再発防止の緊急対策を決めた。
 保育園、幼稚園などのバスを対象に、センサーなどの安全装置を設置することや、園児が降車する際の点呼などを来春から義務付ける。違反すれば業務停止命令の対象となる。運行の安全マニュアルも作る。
 置き去り死亡事件は9月に静岡県で発生する前にも、昨年7月に福岡県で起こっている。それ以外にも、置き去り寸前になるなどの「ヒヤリ・ハット事例」が各地で相次いで明らかになっている。
 静岡県の事件後に行われた通園バスの緊急点検では、全国の施設の約1割が、乗降時に子どもの名前や人数を確認していなかった。
 リスクは潜在的にかなりあるとみた方がよいだろう。人為的なミスによる痛ましい事件が繰り返されないよう、対策を重層的に講じる必要性は論をまたない。最終的にシステムやマニュアルを運用するのは職員であり、改めて安全意識の浸透を図っていく必要もある。
 政府は、安全装置導入に補助金を設け、早期普及を目指すとする。義務化後も1年間は、点検表を取り付けるなどの代替措置を認める。
 緊急対策は、静岡県の事件から1カ月余りでまとめ、迅速に対応した形にはなった。ただ、福岡県で事件があった際は、各自治体に安全管理を求める通知を出したのみで、「不十分だった」との批判がある。真摯(しんし)に受け止めなければなるまい。
 置き去り事案の背景には、現場の人手不足なども指摘されている。
 全国の園の運転手らを対象に民間企業が今年行った調査では、1割弱が「園児を残してバスを離れた経験がある」と回答。置き去りが発生した理由については、「意識が低い」「人手不足」の順で多かった。
 保育職場は、賃金が他業種より低く、業務量も多いとして、人員が慢性的に不足し、それが早期離職を招く悪循環が指摘されている。職場の余裕のなさが、子どもの安全に影響する面は否めない。
 今回の通園バス対策は、限られた業務の課題への対処療法に過ぎない。保育職場の構造的な課題にも踏み込んでいくべきだ。
 現場サイドからの見直し要望が強いのが、運営費の算定基準や、保育士の配置基準だ。
 保育所が受け取る運営費は「公定価格」で決められ、人件費分は、保育士の配置基準に応じて算定される。「4、5歳の子ども30人に保育士1人」などとする現行基準は、欧州先進国と比べてもかなり手薄であり、「安全な保育を行う上で不十分だ」との声が上がる。
 基準通りなら職員1人の負担が大きくなり、保育の充実のために多く雇おうとすれば、賃金を抑えざるを得ない構図となっている。
 政府は来春、こども家庭庁を発足させる。子ども政策の司令塔を掲げるのであれば、こうした課題にしっかり向き合う必要がある。

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