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2022.10.07 08:00

【経済政策】「分配」への思いはどこへ

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 岸田政権が取り組む新しい資本主義は「成長と分配」を重視したはずだ。そうした理念は変わったということだろうか。経済政策の方向性について、岸田文雄首相は丁寧に説明する必要がある。
 先の所信表明演説には「格差」や「分配」が盛り込まれなかった。昨年10月の就任直後の所信表明で「成長と分配の好循環」の実現を掲げ、「分配なくして次の成長なし」と訴えた姿勢とは異なっている。
 新自由主義的な政策は、富めるものと富まざるものとの深刻な分断を生んだ。昨年の所信表明では、指摘される弊害に触れた。そして、世界は健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動対策などに大胆な投資をする新しい資本主義経済を模索していると言及し、日本でも実現しようと呼び掛けている。
 もっとも、そうした意気込みは早い段階から軌道修正されている。首相は格差是正を目指す分配政策として、富裕層の税負担引き上げを念頭に、株式売却益をはじめとする金融所得への課税強化を検討課題に挙げていた。しかし、株価下落などを受けて見送っている。今回、分配の文言が消えたことは、それへのこだわりを失ったようにも映る。
 首相はこれに代えて、構造的な賃上げを主張する。これまでも、賃上げを行う企業への税制支援を抜本強化する姿勢を示してきた。新しい資本主義実現会議では、来春闘で物価上昇に見合う賃上げに向けた協議を行うよう労使に求めた。
 ウクライナ危機や円安による原材料高が、企業業績や国民生活に重くのしかかる。日銀の9月企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感が3四半期連続で悪化した。物価高については当面続く見通しを持っている。
 負担を軽減する対策が求められる。ただ、物価高対応にとどまっていては、景気を押し上げるだけの力は生まれはしない。
 代表質問で首相は、低所得者向けの給付金など、格差や貧困に積極的な対応を講じていると主張した。それはもちろん重要だが、さらに具体的な施策を積み上げて効果を引き出していく必要がある。
 安倍・菅政権が進めた成長重視の経済政策アベノミクスの修正をにじませた首相だったが、それとの違いが分かりにくくなったと指摘される。首相が率いる岸田派は自民党内第4派閥で、党内の意見調整では強い立場をとりにくい背景がある。
 そうした制約を乗り越えるには世論の支持が不可欠だが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題や安倍晋三元首相の国葬問題が影響して内閣支持率は急落している。首相の独自色が薄れていかざるを得ない状況をつくり出しているのは、自らの説明不足も一因だろう。
 首相は真摯(しんし)に、謙虚に、丁寧に国民と向き合うと表明した。自民内からも「聞く力」にとどまらず「語る力」の重視を求める声が上がる。同じことを繰り返すだけでは伝わりはしない。

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