2022.09.20 08:35
70年の画業振り返る 宮地俊一郎さん(県展無鑑査)が画文集 須崎市で9/30まで個展
「こんな人間がおったという気持ちで画文集を作りました」と話す宮地俊一郎さん(須崎市の「風待茶房」)
1932年幡多郡西土佐村(現・四万十市)生まれ。旧制中村中学校から高知師範学校、高知大学教育学部に進学。先輩の片木太郎さんが県展で特選に輝いたのに触発され、中沢竹太郎さん、筒井広道さんから指導を受けた。小学校の教員養成課程だった宮地さんは美術専科の学生との力の差を埋めようと、夏、冬の長期休暇の際には大学の図工教室に泊まり込んでデッサン力を磨いたという。
学生時代の1954年、県展に初出品し初入選。卒業後は小中学校の教壇に立つ傍ら創作を続け、56年の第10回展で初特選。60年、62年と特選を重ね無鑑査になった。
初特選の「浜の人」は当時、安価な絵の具しか使えなかったため、白、黒、茶でモノクロ調に仕上げた作品。翌年、娘が生まれることになり、新しい生命の誕生を絵に残そうとしたものの、キャンバスがなく、「浜の人」を塗りつぶして描いたのが「誕生」という作品。画文集には両作品が収載される。
「若い時は経済的に貧しかったけど、描きたいものがたくさんあって、描いてさえいれば幸せでしたね」
61年に全国展の新象作家協会展で新人賞、奨励賞を受けて準会員に推挙。67年には安井賞入選―と活躍の場を広げた。画文集には、東京学芸大に内地留学中だった20代の頃、新象作家協会展に出品するため、大きくて重い3枚の絵を地下鉄に持ち込み、会場まで運んだエピソードなどが面白おかしくつづられる。
「こんな人間がおったという気持ちで画文集を作りました」と話す宮地俊一郎さん(須崎市の「風待茶房」)
「スケッチには不思議な命を感じます。ふた昔も前のことなのに、眺めているとその頃の情景が鮮やかによみがえってくるんです」
国内を旅して描いた美しい風景画の数々、6回を数えたパリでの滞在生活から生まれた作品からは、その時々の光や空気感が伝わってくる。そして端的につづられた文章と響き合って、楽しく読ませてくれる。
「やぶつばき」は変型B5判176ページ。一佳社刊、4180円。(池添正)