2024年 04月25日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.09.20 08:00

【IPEF交渉】問われる具体的メリット

SHARE

 新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」に関し、参加14カ国が閣僚級会合で正式に交渉入りを宣言した。構想を提唱した米国は、覇権を拡大する中国への対抗軸にする狙いとされる。
 ただ、中国との関わりが深い参加国もあり、実態は同床異夢といえる。関税引き下げは協議せず、輸出拡大につながらないとメリットを疑問視する向きもある。交渉は紆余(うよ)曲折も予想されるが、参加国それぞれが具体的な効果を享受できるかが成否を握ろう。
 日米やインド、東南アジア諸国などが参加し、国内総生産(GDP)の合計は世界の4割を占める。昨年10月の東アジアサミットでバイデン米大統領が提唱した。貿易、供給網、クリーン経済、公正な経済の4分野で多国間連携を構築する。
 ロシアによるウクライナ侵攻の影響により、世界中で半導体や鉱物資源、エネルギーなどの供給網が不安定化した。特定国に依存するリスクが顕在化した格好だ。紛争や感染症流行といった非常時に、そうした影響を緩和する仕組みは喫緊の課題といってよい。参加国間で有事に情報収集・連絡する仕組みをつくり、供給源の多角化を進める。
 クリーン経済ではエネルギーの安全保障強化に加え、脱炭素化も支援する。東南アジアでは経済成長に伴って今後30年間で電力需要が2・5倍以上に増える見通しだが、火力発電への依存度は高い。資金や技術面でインフラ開発の支援策を議論していく。貿易では通関手続きの円滑化のほか、人工知能(AI)といった成長分野での国際的なルールづくりを主導する考えだ。
 一方で、通常の通商交渉では主要なテーマとなる関税引き下げは取り扱わない。米国の意向が大きく働いていよう。与党・民主党は労働者層を支持の基盤としている。自国の産業に大きく影響しかねない市場開放や関税撤廃には踏み込めない状況なのだろう。
 米国は電気自動車(EV)の国内優遇政策で、北米での最終組み立てを適用条件としている。こうした保護政策は自由貿易と整合性がとれず、IPEFに参加する魅力が乏しいと感じる国があっても不思議ではない。
 インド太平洋地域には既に、中国が加入する地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)といった多国間の枠組みがある。中国はTPPにも加盟申請しており、米国が新枠組みを推進する背景に、影響力を拡大する中国との主導権争いがあるのは間違いない。
 だが、中国との関係が深い東南アジアの参加国には、中国への対抗色が強まることに懸念も出ている。米中対立がむき出しとなり、貿易面でのメリットが見いだせない形となれば、各国の立場の違いが遠心力となって働きかねないのではないか。米国がこの地域で存在感を取り戻すには、保護主義的な政策から発想を転換する必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月