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2022.08.27 05:00

【安倍氏の国葬】納得を得ぬまま進むのか

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 多くの国民の納得を得ないままで実施に突き進むのか。岸田文雄首相は国民が抱く疑問と謙虚に向き合い、説明を尽くすべきである。
 政府は9月27日に行う安倍晋三元首相の国葬の費用として、2022年度予算の一般予備費から約2億5千万円を支出すると閣議決定した。
 20年に営まれた中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬に要した2億円弱を指標に検討したという。ただ中曽根氏の場合は国と党が折半したが、今回は全額が国費になる。
 警察当局による会場周辺の警備費や要人接遇の経費は既存の予算で対応するといい、総額でどれほどを要するのかは明らかではない。
 国葬への国民の賛否は割れている。共同通信の今月の世論調査では、これまでの首相の説明に「納得できない」が56・0%。「納得できる」の42・5%を上回った。
 解消されない疑問にはまず法的根拠がある。戦前の国葬令は失効している。戦後、国葬が行われた首相経験者は1967年の吉田茂氏のみ。安倍氏と同じく従一位と大勲位菊花章頸飾を受けた中曽根氏は内閣と自民の合同葬、佐藤栄作氏は内閣と自民、国民有志による国民葬だった。
 安倍氏は中曽根、佐藤両氏とどう違うのか。政府は内閣府設置法が定める「国の儀式」として国葬は閣議決定できるとするが、対象者の基準は示されておらず曖昧なままだ。
 首相は10日、国際社会が弔意を示しているとして「公式行事として開催し、各国代表をお招きする形式で行うことが適切」と述べたが、説明になっていないということだろう。
 弔意の強制につながるとの懸念も根強い。過去に国が関与した首相経験者の葬儀では各府省で弔旗掲揚と黙とうを実施し、府省以外にも依頼する旨を閣議了解してきた。
 中曽根氏の合同葬では、「各公署」に対する弔旗掲揚と葬儀中の黙とうの協力も要請。文部科学省が国立大などに通知を出し、教育の政治的中立性を脅かす懸念があるとして疑問視されている。
 政府は今回、国葬当日に各府省や関係機関に弔意表明を求める閣議了解は見送った。しかし、「府省の対応だけであれば、事務的に周知する方法もある」とする政府関係者の声も報じられている。
 今後、なし崩し的な対応で、憲法が保障する思想・良心の自由の侵害や、国葬の政治利用につながる恐れはないのか。政府は懸念を払拭する必要があろう。
 安倍政権の実績や功罪にはまだ評価が定まっていないものも多い。加えて安倍氏銃撃事件の容疑者の供述から、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民議員の接点には厳しい目が向けられている。
 世論調査では党や所属議員の説明が不足しているとの回答が9割近くに上る。こうした疑念も国民の国葬への視線と無関係ではあるまい。
 国葬に関して、国会で徹底論議することを求める。岸田首相は自ら掲げる「聞く力」に加え、説明する力も発揮しなければならない。

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