2024年 04月20日(土)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.08.26 05:00

【原発の新設検討】乱暴な方針転換だ

SHARE

 エネルギーの安全保障を考えていく上で、原子力発電をどう位置付けるかが極めて大きな要素になる。それを、国民的な議論を経ることなく方針転換するのは、あまりに乱暴ではないか。
 政府が、原発の新増設や建て替えを検討する方針を表明した。最長で60年としてきた運転期間の延長も検討する。
 「原発回帰」が鮮明になった。東京電力福島第1原発の事故以降、歴代政権は「原発への依存度を可能な限り低減する」としてきた。その姿勢と正反対の方向にかじを切ったことになる。
 原発の位置付けを巡っては、ウクライナ侵攻などによるエネルギー情勢の逼迫(ひっぱく)を受け、6月の岸田政権の「骨太の方針」、また自民党の参院選公約では確かに、「最大限活用する」との表現に切り替えていた。
 だが、正面から訴えていたかと言えばそうではなく、争点にもなっていない。新設や建て替えにも踏み込んでいなかった。そして、大勝した参院選から1カ月半後、実質的な方針転換を唐突に発表した。
 原発新設の是非論以前に、その政治手法に疑問を持たざるを得ない。
 安倍晋三元首相の国葬や「資産所得倍増プラン」など、岸田文雄首相の決定には唐突感と不透明さが付きまとう。それが不信感を生み、裏目に出ていることを、もう少し自覚した方がよいのではないか。
 電力の需給逼迫の度合いが深刻さを増しているのは事実だろう。
 ロシアのウクライナ侵攻で、原油や天然ガスが高騰し、エネルギー調達に不安が生じている。
 世界的な脱炭素の潮流により、化石燃料を使う火力発電への投資もしづらくなっている。政府は今夏、全国的な節電を要請し、冬はさらに状況が厳しくなると見通す。
 温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの2050年の実現も目指している。それらが、原発回帰の背景にある。
 だが、原発で事故が起こった場合の影響の大きさが、他の発電施設の比でないのは、福島の現状が示す通りだ。検討する次世代型炉は安全性が高いとされるが、国民が持つ不安は同じだろう。
 新設するにしても反対運動が起こるのは必至だ。その中で数千億円に上るとされる建設費を投じ、回収する計画に現実味はあるのか。
 「核のごみ」と呼ばれ、使用後に出る高レベル放射性廃棄物に関しても、最終処分場の確保は先送りし続けており、見通しが立たない。
 政府は原発稼働への意欲を示すことで関連技術の開発や設備投資、人材育成を促すとする。エネルギー政策に投じる費用や労力が限られる中、再生可能エネルギーに振り向けられるべきではないか。
 原発への国民の不安は根強く残っている。懸念や疑問点で、幅広い理解と納得が得られなければ取り組みを進めることは難しいだろう。国会でしっかりと議論を深めていく必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月