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2022.08.13 08:00

【技能実習制度】共生への具体策を急げ

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 外国人を受け入れ、技術や知識を移転して自国の経済発展に生かしてもらう。そんな看板と実態の乖離(かいり)は周知の事実と言わざるを得ない。むしろ、判断が遅すぎるという見方もあろう。
 法務省がようやく、外国人技能実習制度を本格的に見直す方針を示した。年内にも有識者会議を設け、具体的な制度改正に向けて議論を進める見通しとなった。外国人の人権を尊重した上で、受け入れ企業と労働者の双方にとって有意義な制度としなければならない。
 人づくりを通じた国際貢献という目的とは裏腹に、実質的に技能実習制度は安い労働力の確保策となっている。長年、多くの問題が指摘されてきた。
 厚生労働省の立ち入り調査では2021年、技能実習生を受け入れた事業所のうち72・6%で法令違反があった。作業での安全配慮が不十分だったほか、違法な残業や賃金の不払いなどが見つかり、違反率は高止まりした状態にある。
 中には、人権侵害に至る悪質なケースもある。ことし1月には岡山市の建築会社で、技能実習生が日本人従業員から暴行を受け、重傷を負っていたことが明らかになった。
 もちろん、本来の目的とたがわない運用で研修生と良好な関係にある事業所も多い。受け入れ環境が事業所ごとに異なるのは確かだが、一方で法令違反が横行している現状を踏まえれば、制度そのものの問題と捉えざるを得ない。
 さらに、送り出し機関や仲介者が不当に高額な費用を徴収し、母国で借金を抱えて来日する実習生も多い。米国務省は人身売買に関する報告書で、実習生が「強制労働」させられていると指摘。国際的に厳しい目が向けられていることも忘れてはならない。
 多くの問題点にもかかわらず、これまで政府の対応は鈍かったと言うほかない。16年の技能実習適正化法では実習生の保護をうたいつつ、研修生の在留期間は最長5年に延長され、実質的に制度は拡大された。労働力の確保を優先したとみられても仕方があるまい。
 法務省はことし2月から勉強会を開いて専門家や外国人支援団体から意見を聴取した。しかし、賃金と技能のミスマッチや、事業者による不当な扱い、制度運用を監督する「外国人技能実習機構」の支援体制の不十分さなど、これまで指摘されてきた問題点の確認にとどまった印象が否めない。
 政府は18年の入管難民法改正で、在留資格「特定技能」を新設し、すでに外国人労働者の受け入れ拡大という「本音」を明らかにしている。「建前」を繕うより、外国人労働者の権利保護を徹底して、海外から「選ばれる労働市場」となることが重要ではないか。
 日本経済の労働力不足は年々、深刻になっており、多くの地域で外国人労働者は欠かせない存在になっている。具体的な議論を急ぎ、共生に向けた地域づくりを進めたい。

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