2024年 04月25日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.07.17 05:00

【穀物輸出合意】食料危機回避へ着実に

SHARE

 ウクライナからの穀物輸出を正常化させなければ世界的な食料危機に陥りかねない。遮断された海上輸送路の復活は急務となっている。輸出停滞の解消へ向けて一定進展した動きを本格化させたい。
 ロシア、ウクライナ、トルコと国連は、関係国が参加する枠組みの設置や輸出航路の安全確保で大筋合意した。再協議をして合意文書に署名する見通しという。
 ウクライナとロシアは、両国で世界全体の輸出量の3割弱を占める穀物の主要輸出国だ。ロシアの侵攻で黒海が封鎖され、ウクライナの穀物輸出の大半を担った主要港湾の利用が困難になっている。国内の倉庫には2200万トン超の穀物が滞留しているとされる。
 世界で小麦価格が高騰するなど食料危機の懸念が強まる。今年のウクライナの穀物収穫は前年比で3割ほどの減少が見込まれる。秋までに輸送が回復しなければ新たな収穫分も倉庫に積み上がり、世界の食料事情をさらに厳しくすることになる。
 そうした中での基本合意は、国連のグテレス事務総長が「重要な一歩」と評価するように朗報だ。
 3カ国と国連が参加する枠組みとして「調整センター」をイスタンブールに設置する。航路の安全確保や、ウクライナの港湾出入り口の共同管理を行うとする。
 ウクライナ産穀物は、一部は陸路や河川による輸送が行われている。しかし、船舶ほどには大量輸送ができず、鉄道は他国との線路幅の違いで積み替えが必要となるなど経費や効率面での制約がある。このため海路の復活が重要となっている。
 交渉は、輸出管理の仕組みやウクライナが設置した機雷の除去に詰めの作業が残っているようだ。今回の前進を着実なものにしたい。
 だが、相互不信は根強く曲折も想定される。黒海に面するウクライナ南部などで戦闘は継続している。機雷除去は戦況に大きな影響を与える恐れがあるなど警戒感は根強い。思惑の違いが顕在化して新たな対立を招きかねないだけに、合意の実効性を高める慎重な作業を求めたい。
 新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復による需要増も重なり、食料価格は高騰した。ウクライナ産小麦への依存度が高いアフリカでは、貧困の拡大や深刻な飢餓も懸念される。国連機関は世界で昨年、最大8億2800万人が栄養失調状態だったと推定する。新型コロナの感染拡大が押し上げ、ウクライナ侵攻で食料危機はさらに深まっていると警告している。
 食料不足を巡り、先進7カ国(G7)はその責任はロシアにあると主張し、プーチン大統領は対ロ制裁が原因との姿勢だ。偽情報の拡散で、途上国では食料不足の不満が米欧に向けられているとの分析もある。世界の分断が危惧されるだけに、輸出再開への支援は不可欠だ。
 侵攻開始から5カ月がたとうとしている。侵攻がさらに長期化すると、多方面に一段の影響拡大は避けられない。停戦を改めて求める。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月