2022.07.07 08:36
四国巡礼が人生の転機に 中野周平さん(岐阜)体験記「僕の歩き遍路」
「高知では濃い出会いがあった」と話す中野周平さん(高知新聞社)
システムエンジニアとして就職するも、多忙でうつとなり休職した2016年、唯一やりたいと感じたことが歩き遍路だった。3回の区切り打ちで結願(けちがん)した頃には表情が作れるまで回復。別の仕事に就いていた20年春、生き方を再考しようと退職し、同時に夢だった通し打ちに挑むことにした。
新型コロナウイルス下で、県外移動の自粛要請が解除された6月下旬に出発。全体の約半分はテントで野宿した。同著では旅の様子を1日ごとに、柔らかいタッチで記述。行程や経費、装備、マナーなどはイラスト付きで丁寧に紹介している。
中野さんいわく「きちょうめんな放浪」の旅。人生をもんもんと考えたり、雨や猛暑に疲れて叫んだり。お接待や遍路仲間との交流に救われ、休みつつ長い歩みを進めていく。
一番ありがたかった思い出は、土佐清水市の国道が土砂崩れで通れず、慣れない県道から幡多郡三原村を目指していた夜のこと。心細い中、通りがかった三原村の男性が車に乗せてくれ、寝床に倉庫を使わせてくれた。500ミリリットルのビール缶も置いていってくれた。
豪雨の中、ずぶぬれで安芸市内を進んでいると「こんな時に歩くことないよ」とコーヒーを買ってくれた女性も。「『頑張って』の一言でも1日歩く力になった」と感謝する。
緑豊かな集落の暮らしを横目に歩いたことで「自然と関わる生き方が自分に合う」と感じ、今は知人に紹介された果樹園で働いている。「1カ月半、突き詰めて自分と向き合えた」と遍路で得たものを振り返り、「四国遍路は地元の人あっての文化。なじみのない方にも読んで知ってもらえたら」と話した。(西日本出版社・1650円)(徳澄裕子)