2022.07.02 08:38
繁華街の盛衰とともに 追手筋で半世紀営業の酒屋「ミキヤ」閉店へ
閉店するミキヤ。森尾圭介さん、宏子さん夫妻は繁華街の歴史とともに歩んできた(高知市追手筋1丁目)
高知市追手筋で半世紀以上営む酒販店「ミキヤ」が、3日から閉店セールを行う。森尾圭介さん(77)、宏子さん(76)夫妻が高齢となり、設備更新する体力がなくなったという。繁華街の盛衰とともに、年中無休で歩んできた夫妻は「街にはいろんなドラマがあって楽しかった」と、にこやかに店じまいを進めている。
55番街のはす向かいにある20坪の店は、毎朝9時半に開く。居酒屋やスナックなど約30店を回り、注文に応じてウイスキーやワインをバイクで配達。夕方からは、ビールや日本酒の追加注文が閉店時刻の夜9時まで続く。元日以外の毎日営業だ。
1968年、圭介さんが24歳で現地の氷店を買い取って始めた。まだ、氷を入れて冷やす冷蔵庫が家庭に残っていた時代。電気式の普及に伴い、酒の扱いを増やした。
一軒家が目立った筋にやがてビルが伸び、ネオン輝く街へ。バブル期は高級酒が飛ぶように売れた。「特にマグロ船員が街に来るとドンペリが出る。配達まで10分かかると『まだか』と。店も必死で何本売れるか楽しみやった」(圭介さん)
1991年当時、店先に立つ森尾圭介さん。軒先テントの色は緑だった(森尾夫妻提供)
バブル崩壊後、小泉政権下の規制緩和で酒がスーパーなどで販売されるようになり、売り上げが落ちてきた。さらに、とどめを刺すようなコロナ禍…。
「今週もオンリーワン(客1人)」と嘆くママさんを、宏子さんは「泣き言いうたちいかん」と励ました。ただ、店の売り上げは右肩下がりで、修理を重ねて使ってきた冷蔵施設も老朽化。3年前から在庫を徐々に減らしていた。
店には日曜市の観光客も訪れ、高知の日本酒などを注文。県外に配送する際には、自宅の畑で採れたイチジクやスモモをサービスで詰めて送った。各地から手紙やお返しが届くなど交流は今も続く。
「寂しゅうなるよ」「ありがと」―。常連客が次々と訪れる中、3日からのセールでは圭介さんが仕入れたこだわりワインなどを売り、在庫がなくなり次第、店を閉める。
夫妻は「街も人も変わる中、やりたいようにやれて満足」としんみり。「これから何をするか決めてないけど、お客さんとの付き合いは続けたい」と話す。
約30年勤めてきた男性従業員(56)は「2人は年中無休で働き、ほかのことはなんちゃあできん。閉店後はとにかく遊んで」とねぎらった。(加藤風花)