2022.06.28 08:00
【2022参院選 新型コロナ対応】依然大きい感染への不安
「新型コロナを乗り越え、平時に近い経済社会を取り戻す」。岸田文雄首相は今月15日、通常国会閉幕を受けた記者会見でそう前置きした上で、「観光の国内需要の創出」策を発表した。
政府は今月、入国者数の上限を緩和。訪日外国人観光客の入国手続きも約2年ぶりに再開した。
7月前半からは地域観光を一層支援するため、都道府県が行う旅行割引「県民割」の適用を全国に広げる方針だ。軸足が感染防止中心から経済再開に移ろうとしている。
この2年余り、新型コロナの感染拡大は景気や生活に大きな影響を及ぼしてきた。経済や人の動きが抑制され、職を失った人や収入が大幅に減った人も少なくない。
経済活動が縮小したままでは生活は上向かない。感染防止と経済との両立を模索する時なのは分かる。ただ、不安は依然大きい。
現在主流のオミクロン株は比較的重症化率が低いとされるが、全国の新規感染者数はいまも連日のように1万人を超える。クラスター(感染者集団)の発生も相次ぎ、一部地域では増加の兆しも見られる。
ワクチンの3回目接種率は現在61%台で、65歳以上に限れば90%に近い。岸田首相は先進7カ国(G7)では「トップクラスの水準」とするが、最近は接種率が伸び悩んでいるのが実態である。
入国制限を緩和すれば、新たな変異株が海外から入ってくるリスクも高まる。政府はこうした問題に引き続き緊張感を持って臨む必要がある。不安が解消されてこそ、経済も活発になるのではないか。
政府のこれまでの新型コロナ対応を検証していた有識者会議が今月15日、報告書を取りまとめた。2009年の新型インフルエンザ流行を教訓に翌10年、医療機関と行政の連携強化などを提言したが、平時に危機意識が薄れて体制が構築されず、検査不足や医療逼迫(ひっぱく)を招いたと、厳しく指摘している。
これを踏まえ、岸田首相は感染症対策を一元的に担うという「感染症危機管理庁」や、米疾病対策センター(CDC)をモデルにした専門家組織「日本版CDC」の創設を発表。医療体制の強化に向け、感染症法を改正する方針にも触れた。
とはいえ、検証結果や今後の政府方針は国会では十分に論議されていない。報告書がまとまったのは通常国会の閉幕日。しかも1カ月ほどで取りまとめられ、十分に検証されたのか疑問視する向きもある。
コロナ禍に伴う事業者や家庭へのさまざまな経済支援策も今後どうするのか大きな課題である。感染後、後遺症に長く苦しむ人もいる。
備えるべきもの、検討すべきものは多い。国民の健康と暮らしを左右するテーマであり、参院選でもしっかりとした論戦が欠かせない。