2022.06.27 08:35
飲食店開業夢見て奮闘 トマト農家 平川和枝さん(50)四万十市―ただ今修業中
真っ赤に育ったミディトマトを収穫する平川和枝さん(四万十市竹島)
6月上旬、四万十市竹島の市立四万十農園あぐりっこ研修センター。ビニールハウスで赤々と実ったミディ(中玉)トマトを収穫し、いとおしそうに眺める。
「緑から赤へ色が変わり、甘く味が出る。あたしにはこれが不思議。飽きひんのです」
3年前に鹿児島県から同市へ移住。同センターで1年間の研修を受け、昨年夏、同じ敷地内にある市のハウス1棟を借りて就農した。
取り組むのは、4千本に上るトマトのポット(容器)栽培。同センターが県内では初めて2016年に導入した。従来の土耕栽培より病気になりにくいといった利点がある半面、1本の木をわずか1リットルの土しか入らない容器で育てるため、水分管理が難しいという。
「日によって天気も湿度も違う。水加減が重要で、それさえつかめたら“ちょろい”んですけどねー。まだちょろいとこまでいってません」と笑う。
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大阪府東大阪市出身。地元の中学校を卒業後、定時制高校に通いながら和洋さまざまな飲食店で働いた。「将来は自分の店を持つのが夢でした。それが結婚で狂ってしもて」
27歳の時、6歳年上の大蔵さんと結婚。長男出産後は府内の高齢者施設でヘルパーとして働いていたが、35歳の時に一家3人で鹿児島県の種子島へ移住した。サーフィンが趣味の大蔵さんが「海の近くに住みたい」と言い出したからだ。
種子島では介護施設で働きながら、スナップエンドウ農家になった大蔵さんの仕事も手伝った。平穏な生活だったが、長男が高校を卒業するタイミングで「あたしも好きなことしたい」という気持ちが“爆発”。何度も旅行で訪れ、大好きだった四万十川の近くへと、48歳で2度目の移住を主導した。
介護の仕事には体力的な不安も感じていたところ、たまたま訪れた市役所で同センターを紹介され、ポット栽培を見学した。「こんな小さい容器からトマトの木て…。どうなってんねん、と。引き寄せられました」
就農を口にすると、大蔵さんからは「寝言は寝て言え」と反対された。が、自分の好きにするという意思は変わらず、突き進んだ。
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好きな言葉
施肥や水やりは機械で行うが、濃度や回数などをこまめに設定する必要があり、マニュアルはない。「難しい。やり方が分かれば、作業自体は体力のない女性でも高齢者でもやれるけど…。今は1日が一瞬、1カ月も一瞬で過ぎる。はよ死ぬんちゃうかな」
苦労を冗談めかして言えるのは、種子島からついてきてくれた大蔵さんの手助けがあるからだ。「作業や経営のことをすごい言うてくる。農業を始めて、旦那のすごさが分かった。悔しいから言いませんけど」
農業が軌道に乗れば、夢だった飲食店も開きたい。「規格外のトマトを使ったお店。妄想中です」。笑顔の横で、真っ赤なトマトが揺れた。
写真・山下正晃
文 ・芝野祐輔