2022.06.27 08:33
わくわくを増やしたい―20歳のマイレール 地域と歩む ごめん・なはり線(2)
笑顔で列車を見送る松岡俊さん=左=と典代さん(奈半利町の奈半利駅)
初日の記憶は今も鮮明だ。店に隣接する展望デッキには、一眼レフのカメラを構えた鉄道ファンが列を成していた。満員の列車から降りてくる乗客を見て「よう乗っちゅうねえ」。のんきにスタッフと話していた数時間後、大量の乗客が店に押し寄せた。
「1時間に1本の列車が着くと、直後に店が満席になる。その繰り返し。もう必死でした」。午前11時の開店から午後10時の閉店まで、ひたすら料理とドリンクを作り続けたと振り返る。
駅舎1階にある物産館「無花果(いちじく)」も、大勢の乗客でごった返した。その時フル回転で応対していたのが、後に俊さんと結婚する典代さん(45)。夫妻は当時を懐かしむ。
「新しい鉄道を盛り上げよう、町に人を呼び込もうという熱意がすごかった。畳を投げるといった風変わりなイベントもやったりね。奈半利が一つになって頑張ろうって、輝いていた時期だった」
食堂も頑張った。「ユズを使ったピザはない?」「地元で揚がった魚が食べたい」。リクエストに応えて特色豊かなメニューを徐々に増やし、人々の舌を満足させてきた。
翻って現在。沿線人口の減少に新型コロナウイルス禍も加わり、乗客数は目に見えて少なくなった。イベントもいつしか開催されなくなった。店の売り上げも、じりじりと下がっているという。
「何か新しい魅力を発信できないか」。俊さんは今、新たなメニューの開発に思いを巡らせる。モチベーションの源泉は地元への感謝。「町の人たちに育ててもらった店。だから恩を返したい」。目指すのは「わざわざ食べに来てもらえる店」だ。
始発駅であり終着駅でもある奈半利駅。「だからこそ、何かわくわくする物を増やしたい。うちのパスタやピザがその一つだったらうれしい」。鉄道や駅、そして町の魅力アップの一助になればと願い、俊さんは今日も厨房(ちゅうぼう)に立つ。(中芸支局・植村慎一郎)