2022.06.14 08:45
デジタルで甦る「牧野標本」 高精細カメラ「美」捉える 本紙ラッピングに使用―デジタルPlus

牧野富太郎博士が採取したセンダイヨシノの植物標本の現物(県立牧野植物園所蔵)

1億5千万画素のデジタルカメラで撮影されて画像処理が施された牧野標本(菅原一剛さん撮影)
写真家の菅原さんは、博士生誕150年の本紙連載「淋(さび)しいひまもない―生誕150年 牧野富太郎を歩く」をまとめて刊行された「MAKINO」(北隆館)を東京の書店でたまたま手にして、その魅力的な人物像に心を動かされ、牧野植物園や高岡郡佐川町を訪れるようになった。山地から海岸まで高知の多様な自然環境を再現して植生された牧野植物園のアプローチ、生涯愛した故郷に咲く花「バイカオウレン」…。菅原さんの関心とカメラは、さらに「牧野標本」に向けられていく。菅原さんは言う。
「何というか、牧野博士の植物標本には、他のものと全く違った美しさを感じるんです。それはもちろん植物研究のためだったのでしょうけど、あの博士の緻密な植物図と同じように、独自の美意識があるように思えてならない」

厳選された牧野標本41点が並び、撮影が行われた(牧野植物園)
そして博士の生誕日、4月24日付の高知新聞。全41点の中から「センダイヨシノ」をラッピング紙面に選び、裏面には博士の言葉を日本語と英文で添えた。
〈植物に感謝しなさい。植物がなければ人間は生きられません。植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう〉
ラッピングに使われた写真にはデジタル処理がされている。標本紙に貼られた桜の花や枝などは「ラミントンテープ」で固定されている。このテープ部分をレタッチと呼ばれる写真加工技術を使って消去し、本来の植物そのままの造形に再現した。どこに「ラミントンテープ」が貼られていたか。植物研究者でも凝視しないと分からないほどの精密な加工だ。
菅原さんの写真スタジオでは、撮影した全41点のデジタル処理が進行中だ。そして、どのような紙にプリントするのか。新たな「ボタニカルアート」の試行錯誤が続いている。(竹内 一)