2024年 03月29日(金)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知龍馬マラソン2024写真販売
高知新聞PLUSの活用法

2022.05.23 08:00

【知床沈没1カ月】問題点検証し再発防げ

SHARE

 北海道・知床沖で乗員乗客26人を乗せた観光船「KAZU(カズ) Ⅰ(ワン)」が沈没した事故から、きょうで1カ月になる。14人の死亡が確認され、沈没現場の海底では「飽和潜水」による捜索も行われたが、残る12人は発見や身元特定に至っていない。
 事故後、船の運航会社「知床遊覧船」のずさんな安全管理が次々と明らかになった。同時に、観光船など小型旅客船事業の許可権限を持つ国のチェック体制の甘さも露見している。問題点を検証し、再発防止につなげなければならない。
 運航会社は当日、安全管理規程上、出航できない波の高さだったにもかかわらず出航した。出航の可否を判断する「運航管理者」だった社長はその基準すら知らず、船の運航中は詰めていなければいけない事務所からも離れていた。
 海上で極めて重要になる通信手段についても、衛星電話ではなく、航路の大半は通信エリア外である携帯電話を使うと当局に申告。実際、事故発生時、船からの救助要請は乗客の携帯電話からだった。この会社は以前、船舶安全法で認められていないアマチュア無線も使っていた。
 国には、こうした運航会社の安全軽視の体質や具体的な不備をただす機会があったにもかかわらず、事故を防ぐことができなかった。責任は免れない。
 運航会社は昨年、座礁など2度の事故を起こし、国土交通省が特別監査を実施。出航可否の判断に関する記録の不備や連絡体制の改善などを指導した。会社は改善報告書を提出し、その後、国交省は抜き打ち検査も行ったが、安全管理はずさんなままだった。改善報告の際に提出された運航記録簿で不自然な記載も指摘されている。当局のチェックが不十分だったと言わざるを得ない。
 事故の3日前、衛星電話の代わりに携帯電話の使用を認めた船舶検査でも、会社側の「海上でもつながる」との説明をうのみにした。社長が「運航管理者」の要件を満たしているか疑義も生じているが、国交省は昨年、届け出があった際に提出書類だけで認めていた。
 一連の対応を巡って、斉藤鉄夫国交相は18日の国会審議で「反省点がある」と認めた。なぜチェックが甘くなったのか、経緯や背景も明らかにしていくべきだ。
 事故を受けて国交省は、小型旅客船の安全対策を協議する有識者委員会を立ち上げた。
 検討項目には、違反があった場合の処分の厳罰化、抜き打ち検査の強化、また、利用者向けに事業者の事故歴や処分歴を開示することなどが挙がっている。安全確保へ実効性のある取り組みを求める。
 経済、観光活性化を口実とした規制緩和も、安全が軽視されては元も子もない。過去、貸し切りバス業界では規制緩和で新規事業者が急増し、経験不足やコスト優先の経営姿勢が重大事故を招いた。人命に直結する小型旅客船事業も、安全確保が最優先される環境づくりに努めていく必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月