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2022.05.21 08:45

炎が生む高知の味覚―[音土景] 音感じる土佐の風景(17)

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 噴き上がった炎が、カツオの切り身をのみ込む。脂のはじける音、てらてらと光る赤身、焼けた稲わらの香ばしい香りが食欲をそそる。

 高知市上町4丁目の老舗鮮魚店、上町池沢本店。午前8時過ぎ、職人がカツオのわら焼きたたきを作り始めた。

 早朝に市場で仕入れたばかりのカツオを職人が4本の節に切り分け、塩を一振り。すきのような「てっきゅう」に載せ、炎に突っ込む。皮目をあぶり、しま模様が焦げて消えかけると、ひっくり返してさっとあぶる。わずか3分ほどで、高知を代表する味覚に生まれ変わった。たまらずのどが鳴った。

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 県民に広く愛されるカツオのたたき。だが、そのルーツははっきりしない。

 俗説では、長宗我部元親がカヤで焼いた▽土佐藩主が食中毒防止に生食を禁じ、表面だけ焼いて「焼き魚」と称して食べた―などがあるが、県立高知城歴史博物館の藤田雅子資料学芸課長は「いずれも資料的な根拠は確認できません」。

 2代藩主・山内忠義の手紙に、「鰹のたたき」という文字が見えるそうだが、これは「魚をたたき込んで発酵させた塩辛、いわゆる酒盗に近かった」。今と同じ製法で確認されたのは、明治26(1893)年の料理本だという。

 一方、土佐料理研究家の故宮川逸雄さんは著書「土佐 魚を味わう」で、こんな見立てを披露する。

 「焼き切り」の習慣は土佐、紀伊半島、薩摩半島にあるが、身をたたいて塩やたれを染みこませるのは土佐だけ。そして各地での聞き取りを踏まえ、足摺半島の西海岸で行われていた「磯魚の焼き切りがたたきに発展した」―としている。

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 再び高知市の上町池沢本店。焼き上がるカツオの脇で、5代目社長の池沢秀郎さん(45)が「うちは鮮度にこだわる。身質が見えない冷凍ものは使わない」と力を込め、「毎日、カツオだけを買う人もいる。県外の人に『食べさせたい』思いが強い人も多い」と話す。

 店のたたきは、ほとんどが発送用。最も売れるのは6月で「父の日のプレゼント」とされているとか。1日150本を焼く日もあるという。

 料理誕生の真相は、香ばしい煙の向こう。ともあれ、その味と香りは、県民の心と体に深く深く染みている。(森本敦士)

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