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2022.05.17 08:00

【国の借金膨張】財政規律のたが締め直せ

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 国の借金膨張が止まらない。2021年度末で国の「長期債務残高」が1017兆円に達した。地方分を合わせ1210兆円となる見込みで、総人口で割ると1人当たり約966万円の借金を抱える計算だ。
 社会保障費の増加という構造的問題に加え、新型コロナウイルス対策の支出が財政悪化に拍車を掛ける。際限なく歳出を増やせば、将来の国民負担となる。改めて財政健全化への道筋を探る必要がある。
 長期債務残高は、国債や借入金などの借金全体から、貸し付けの回収金が返済に充てられる「財投債」などを除いた金額。財政の健全度を測る指標として重視される。02年度末に初めて500兆円を突破し、約20年間で倍増した。
 借金が膨らみ続けるのは、税収でどれだけ政策経費を賄えるかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)が赤字だからだ。税収を上回る歳出規模が続き、不足分を国債発行で補う構図が定着して借金が積み上がった。
 特にこの10年間は、大規模な金融緩和と積極的な財政出動を柱とした経済政策アベノミクスの影響を考えざるを得ない。日銀は物価目標実現を名目に金融機関から国債を買い取り、市中に出回るお金の量を増やして円安と株高を演出した。
 効果の一方で、非常時の金融政策が長期化した副作用もみられる。大量の国債買い入れは事実上、独立機関である日銀が国の財政を支える形となり、金利抑え込みが財政規律を緩ませたとの批判は根強い。
 借金が膨らんでも国債を発行しやすい環境はいまも続く。政府の長期債務残高は21年度末までの1年間で約44兆円増え、22年度予算も3割以上を国債に依存する。
 際限ない借金はリスクが伴うことを忘れてはなるまい。財政の悪化で円の信頼が揺らげば、意図せず金利が上昇したり、財政運営に支障がでたりしかねない。
 財務省の試算では、長期金利が想定を1%上回れば、25年度の国債費は3兆7千億円膨らむ。そうなれば災害や感染症の流行といった不測の事態に、財政的な対応が難しくなる恐れもでてこよう。
 アベノミクスを推進した安倍晋三元首相は会合で「日銀は政府の子会社だ」として、財政悪化も「心配する必要はない」と発言した。独自の通貨を持つ国は借金をいくらしても財政破綻は起きないとする「現代貨幣理論」が念頭にあるのかもしれない。
 だがこの経済理論は通貨の下落、輸入価格の上昇で深刻なインフレや経済混乱を招く恐れが指摘され、実現は困難という見方がある。疑義のある段階で、一学説に国家の未来を委ねるわけにはいかない。
 政府はPBの黒字化目標を先送りしてきた。コロナ禍などで国民の生活と健康を守る財政出動は避けられないとしても、長期的な視点を欠いてはならない。非常時からの出口戦略を見据え、急ぎ財政規律のたがを締め直す必要がある。

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