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2022.05.12 08:00

【経済安保法成立】企業活動の自由に配慮を

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 岸田政権が看板政策と位置付ける経済安全保障推進法が参院本会議で可決、成立した。来春から段階的に施行される。
 激動する国際情勢の中で、経済活動と安全保障は切り離せなくなっている。厳しさを増す現実をにらみ、着実に対応する必要がある。
 一方で、国の関与が強まり過ぎれば、企業活動の自由や経済合理性が損なわれる恐れもでてこよう。政府は規制と効果のバランスを慎重に見極めた上で、より抑制的に運用しなければならない。
 中国やロシアなど強権的な国家を念頭に、物資の安定供給と技術流出を防ぐ狙いだ。米中対立の激化と新型コロナウイルスの世界的流行で、半導体などの供給網の弱さが浮き彫りになった。
 そこに資源国であるロシアのウクライナ侵攻が拍車を掛けた。エネルギーや希少鉱物の価格高騰などさまざまな物資に影響が広がり、関連性ははっきりしないものの、日本企業へのサイバー攻撃も多発している。企業活動や国民生活を守る上で、安全保障上のリスクを回避する重要性はいっそう増している。
 政府は、経済安保の法制化により官民連携の対策をうたう。現実的な課題である供給網強化では、半導体や希少鉱物などを「特定重要物資」に指定し、国が実態を調査。仕入れ先の多角化など安定調達できる体制整備を財政支援する。
 このほか人工知能(AI)など次世代技術の開発でも国が資金や情報面で支援。鉄道やエネルギーといったインフラを担う業種で重要なシステムの安全性を国が事前に審査したり、軍事関連技術の特許を非公開にしたりする制度も盛り込んだ。
 一企業が安全保障上のリスクに対処するのは限界があろう。しかし、国の関与や監視が「官民連携」の範囲を超えてしまうと自由な企業活動を阻害し、資本主義の根幹も揺らぎかねない。
 経済安保法は、この極めて重要な問題を曖昧にしたまま、成立したと言わざるを得ない。例えば、インフラ企業で審査対象となる重要システムとはどの範囲なのか。政府は詳細を政令や省令で定めるとして、国会での審議を経ても具体的な影響は判然としない。
 岸田文雄首相は「規制は必要最小限度にするよう努める」としつつも、政府が柔軟に対応できる仕組みは必要だとした。政府の裁量が大き過ぎて、恣意(しい)的に運用することも可能ではないか。
 与党のほか、立憲民主党と日本維新の会、国民民主党は、重要物資の指定時に関係事業者などの意見を考慮するといった文言を付帯決議に盛り込んだが、法的な拘束力はない。重要法案でありながら、議論が熟していない印象は拭えない。
 国の関与の強まりに、企業側には少なからず警戒感もあるだろう。政府は運用の在り方を早期に明確にして懸念を払拭するとともに、最小限の規制や監視にとどめる慎重さが求められる。

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