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2022.05.03 08:00

【憲法施行75年】「なし崩し」を危惧する

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 日本国憲法はきょう3日、施行から75年を迎えた。
 基本的人権の尊重と国民主権、平和主義は一つとしてゆるがせにできない基本原則だ。また戦争の惨禍を教訓にした現行憲法は、権力者側の行き過ぎに歯止めをかけ、権力を縛る立憲主義を本旨とする。
 権力がその縛りから自由になりたがっている。そんな傾向が特に顕著になったのは、立憲主義の本旨とはかけ離れた「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法」という認識を示し続けた安倍政権以降ではないか。
 安倍政権は、集団的自衛権の行使を可能とした安全保障関連法を成立させ、施行した。歴代の政権は、憲法9条で許される自衛権の範囲を超えているとして集団的自衛権の行使を禁じてきた。だが、閣議決定で長年の憲法解釈を変更。憲法を改正しないままの法制定は、今も多くの専門家が「違憲」と指摘する。
 強弁や説明拒否、採決強行を重ねる政治手法にも批判が相次いだ。憲法軽視の姿勢に加え、日本の法治主義にゆがみをもたらした「負の遺産」を残したといえる。
 今また、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻といった「危機」に乗じた前のめり、なし崩しの危うさが出てきている。
 昨秋の衆院選で自民党には、緊急時に政府の権限を強める緊急事態条項の新設を改憲の「突破口」にする期待があると報じられた。
 感染症の拡大抑止を考えれば、自粛を含めて一定の制約はやむを得ないという理解は国民にもあろう。
 ただ、現憲法に緊急事態条項が設けられなかった背景には、戦前戦中に「非常時」の名の下に国家総動員体制などが敷かれ、国民の権利や自由が奪われた反省があることを忘れてはならない。縛られるべき権力の裁量を拡大する憲法上の条項は、やはり慎重に検討されるべきだ。
 相手領域内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」の保有論議も浮上している。自民党は「反撃能力」に改称して保有するよう岸田文雄首相に提言。年末の「国家安全保障戦略」などの改定に向けて最大の議論の焦点になる。
 中国や北朝鮮の軍備増強もあり、日本の安全保障環境は厳しくなっている。とはいえ集団的自衛権行使の容認と同様、憲法解釈の枠から外れているという専門家の指摘もある。
 かえって際限のない軍拡競争に陥りかねず、技術的にも非現実的という見方もある。国民の疑問や批判を言葉の言い換えで乗り切るような、なし崩しの結論は許されない。
 むろん、憲法は「不磨の大典」ではない。共同通信の世論調査では、デジタル社会の人権保障など新たな課題の議論を求める声も多かった。社会との深刻な乖離(かいり)があれば、見直すのは当然だろう。
 一方で、世論調査では改憲の機運は「高まっていない」とする回答が7割を占めた。「危機」に乗じるかのような憲法論議には、拙速に陥る危うさがある。主権者の声を十分に踏まえた冷静な議論を求める。

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