2022.04.25 08:35
標本軸に生物の魅力発信 博物館職員 宮地萌さん(29)越知町―ただ今修業中
「来館者が『へぇ、そうなんだ!』となる様子が大好き」という宮地萌さん(越知町の横倉山自然の森博物館)
おなかの羽毛をかき分け、皮にメスを入れてゆっくり広げ―。この1年間、県内で収集された野鳥約200羽の標本づくりに打ち込み、腕を磨いてきた。
「生き物に関する活動や仲間との時間はストレスがない。とても居心地がいいんです」。ふんわり優しい物腰に、強い好奇心が同居する。
今年4月に高岡郡越知町の地域おこし協力隊員として、横倉山自然の森博物館で働き始めたばかり。剥製や岩石標本の管理、企画展の運営などを担う。
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高知市出身。幼い頃は祖母の美由さん(76)=同市福井町=と毎日のように野原や小川で遊び、休日には弁当を持ってハイキングに出掛けた。祖母は「草の汁にまみれて一日中でも生き物を探す子どもだった」と笑って振り返る。
ユニークなエピソードには事欠かない。小学1年のある朝、家族の元に学校から「萌ちゃんが来ない」と連絡が入った。みんなが慌てる中、午前9時過ぎに悠然と登校し「原っぱでクサイチゴを食べておなかいっぱい」とにっこり。他にも、洗濯機で服を洗うとポケットに入れていたダンゴムシが次々と浮いてきたり、庭のトカゲの背中に「どの子が来ているか知りたい」とペンで番号を書いたり…。
周囲に「昆虫博士」と呼ばれた小学生は高知南高校へ進む。科学部で県内のユビナガホンヤドカリの「住宅事情」を調べ、卵を抱える雌は大きめの、雄は小さめの貝殻にすむことを突き止めた。
興味の幅は広く、高知大学では哺乳類の解剖や標本作製をする研究者らの活動に参加。友人に川遊びに誘われ「あ、ここにも世界が広がっている」。仁淀川水系の水生昆虫が、修士論文のテーマとなった。
就職先は「高知が大好き。でもそれしか知らない人生はもったいない。(四国や本州では見られない)オオコウモリなんかも見られるし」と、沖縄市の動植物園を選んだ。学芸員兼飼育員を4年間務め、昨年2月に高知に戻ってきた。
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好きな言葉
外来生物の企画展を担当した時のこと。自身の興味に任せて資料を調べ、作った展示パネルは情報がぎゅうぎゅう。子どもたちは足を止めてくれなかった。「簡潔に、分かりやすく伝える」大事さに思い至った。
昨年から始めた標本づくりも、経験と技術はまだまだ。横倉山で展示中の黒い水鳥、オオバンの剥製も、自分なりに上手にできたつもりだったが、ベテラン学芸員は一目見て「首が伸び、前かがみすぎる」。あらためて複数の写真を見比べると、自然界ではもっと首をたたみ胸を張っていると分かった。
「私は一つの資料しか見ていなかった。慢心です。羽1枚の重なり方で格好が変わるので気をつけないと」。反省の弁を述べる表情は「楽しいことがいっぱい」といった風情。祖母の美由さんも「今の仕事は幸せだと思う」と喜ぶ。
これまで昆虫、ヤドカリ、哺乳類、鳥類と好奇心の向くままに走ってきただけに、「私には専門性が足りない」。続けて言った。「一本の芯を持った上で、広い興味を持つのが理想。これからは標本を軸に、大好きな生き物や博物館の魅力をもっと伝えたい」
写真・土居賢一
文・八田大輔