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2022.04.24 08:40

牧野標本は新たなボタニカル・アート、美しさと生命感がある 写真家・菅原一剛さんに聞く

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「スマートフォンで簡単に撮影できる時代だからこそ“モノ”としての写真に価値を感じています。この牧野博士の植物標本を撮影した写真も、ぜひプリントの実物を見てもらいたいですね。土佐和紙にプリントもしてみたいです」と話す菅原一剛さん(東京都渋谷区のギャラリー「BLANDET」)

「スマートフォンで簡単に撮影できる時代だからこそ“モノ”としての写真に価値を感じています。この牧野博士の植物標本を撮影した写真も、ぜひプリントの実物を見てもらいたいですね。土佐和紙にプリントもしてみたいです」と話す菅原一剛さん(東京都渋谷区のギャラリー「BLANDET」)

 きょう4月24日は、牧野富太郎博士の誕生日です。桜散って新緑が輝き始める。そんな爽やかで美しい季節に、世界的植物学者は高岡郡佐川町に生まれました。2022年は生誕160年となります。今日の高知新聞は、牧野博士が採取したセンダイヨシノの植物標本で本紙を包み込む「ラッピング」を施しました。この桜は1939(昭和14)年、東京の博士の自宅庭で採取されたものです。

 牧野博士の植物標本を撮影したのは写真家の菅原一剛さん=神奈川県鎌倉市=です。菅原さんは牧野富太郎に深い関心を持ち、県立牧野植物園や佐川町などで撮影を行ってきました。中でも菅原さんが注目したのは同園が所蔵する牧野博士の植物標本でした。東京で開かれていた菅原さんの写真展のギャラリーで話を聞きました。

 ―牧野富太郎の緻密で美しい植物図は、多くのアーティストたちを魅了し、人気のある手帳の表紙にも使われていますが、学術史料である植物標本を被写体に選んだのは意外なことでした。

 「もちろん牧野博士の植物図は素晴らしいのですが、その美意識のようなものは標本にもあって、何かこうチャーミングで、色っぽく感じたんです。他の人の植物標本では感じられない美しさと生命感があるんです。欧米の標本と比べても、牧野博士のものには、何かこうアジア的な美意識を感じます」

―牧野植物園も当初は植物標本をアートの対象として撮影することに戸惑いもありましたね。

 「そうでしょうね。これまで、いわゆるボタニカル・アートとして、植物標本が対象になったことはないんじゃないでしょうか。僕は初めて牧野植物園に収蔵されている博士の植物標本を見せていただいて、これはカッコイイ、何か特別なものだという確信を持ちました」

 ―撮影は昨年11月でした。実際にシャッターを切ってみて、いかがでしたか。

 「使ったのは世界最高水準の1億5千万画素のデジタルカメラです。いや、すごかったですね。当たり前のことですが、植物標本というのは生きていた植物を並べたものです。15Kの精細な画像によって、植物の微細な部分までもが鮮明に見える。写真は大きく伸ばすことができるから、さらに細やかな部分を確認できる。その情報量がすごい。まあ牧野博士は自身の観察によって、1ミリの間に5本の線を引くような細密な植物図を描いていたわけですけど」

 ―それにしても植物標本がアートになることに驚きました。

 「やはり植物そのものが美しい。地球上にある究極の美を備えたもので、何たる生命物かと思います。その植物が標本となって永遠の美しさを保っている。それを僕が技術を駆使して撮影し、そしてプリントした。新しいボタニカル・アートが生まれたと感じています」

 ―今回は博士の植物標本の中から桜を選び、新聞本紙を包み込みます。

 「いや、もう、うれしくて。最高です。幸せなことです。僕は3年前、ウクライナに行っているんです。リビウからキーウ(キエフ)まで車で走って、その景色を見ました。モスクワ、サンクトペテルブルクといったロシアの都市にも行っています。戦争が始まってしまって、とても悲しく思い出すことは、ウクライナの雄大な景色がロシアの景色とそっくりそのままだということです。たくさんのウクライナ人が死に、街がぐちゃぐちゃになり、あの景色や自然が破壊されている。6月になるとウクライナの地に花が咲き乱れます。その植物たちも犠牲になっているでしょう」

 「あまりに悲惨な光景でテレビのニュースを見ることができなくなって、家に届く新聞もめくれなくなっているほどです。芸術は人の気持ちを和らげるためにありますよね。植物を愛することは優しさや思いやりを持つことでもあります。そして桜は平和のシンボルです。いま、この時代にふさわしい植物ではないでしょうか」


 すがわら・いちごう 1960年札幌市生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、早崎治氏に師事。フランスで写真家として活動を開始して以来、数多くの個展を開催。2005年、ニューヨークのペース・マクギルギャラリーで開催された「Made In The Shade」展にロバート・フランク氏と共に参加。23年1月には青森県立美術館で個展が開かれる予定。日本赤十字社永年カメラマン。大阪芸術大学客員教授。

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