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2022.04.04 08:38

客の思い塗り重ね 左官 南口恵里さん(36)高知市―ただ今修業中

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「土は生きもん。夢中で塗ってるときが一番楽しい」と話す南口恵里さん(高知市はりまや町2丁目)

「土は生きもん。夢中で塗ってるときが一番楽しい」と話す南口恵里さん(高知市はりまや町2丁目)

 30キロの袋を担いで駆け回る。ざばーっと、大きなバケツに土を流し込んだらひたすら練る。水を含んだ土はずっしり重く、一輪車を押す足がふらつく。

 「もたもたせんと、はよせんか」。おっちゃんたちが呼ぶ声に、再び土を練りに走った―。初めての現場。商売道具のコテさえ握らせてもらえず、悔しかった。「よし見とけ、やってやる」。男社会に飛び込んでいく覚悟が決まった。

 あれから7年。鮮やかなピンクのキャップをかぶり、壁にコテを滑らかにはわせる。「コンクリートのたぷたぷした感じや、さーっと整っていくのが気持ちいい」と、にかっと笑う。

 ◆

 三重県出身。高校の時は、とび職のお兄ちゃんたちに憧れた。母に話すと「女はあかんやろ」。とび職を諦め、高知大学に進学した。アルバイトではすしを握った。客の中には「女がすしなんか握って」とつぶやく人も。女じゃあ、ダメかあ。もやもやが残った。左官の魅力を知ったのもこのころだった。

 大学の近くをふらり散歩していた時、蔵や家の壁に描かれた白い龍を見た。「かっこいい…」とときめいた。調べてみると、土佐漆喰(しっくい)で浮き彫りにした鏝絵(こてえ)だった。

 大学卒業後に就職したのはデザイン会社。スーパーや百貨店のチラシや広告を作った。思い描いたものが自分の手で形になるのは楽しかったが、締め切りに追われ、パソコンの前に座りっぱなし。体を動かす仕事がしたくなった。

 気付けば、とび職に憧れた時から10年以上がたち、職人の世界にも男性に交じって活躍する女性が増えていた。あの鏝絵が忘れられず、「左官がやりたい」との思いが募った。

 職人に話を聞きに行き、左官の講習会に足を運んだ。ぶっきらぼうな職人が多い中、話し掛けてくれたのが親方。面倒見がよさそうで、風格が男前だった。「見つけた」。29歳の時、弟子入りを申し込んだ。

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好きな言葉

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 親方の会社には10人以上の職人が出入りしていた。60歳超えの先輩たちの多くは中卒で弟子入り。寮生活をしながら2年間はでっち奉公し、なかなかコテに触れることも許されなかったという。そんな時代から50年近くコテを振り続けたおっちゃんたちは、もっぱら背中で語る。質問攻めにして、食らいついた。

 夜明け前の道具倉庫。午前7時に現場へ出発するため、午前5時半からおっちゃんたちが集まる。夏は蚊取り線香、冬は石油ストーブを囲み、鍋で温めたコーヒーを一緒に飲みながら道具や現場について語り合う。一番の学びの場だった。

 土壁、屋根、風呂や土間のタイル…。高知の左官は何でもやる。自由で楽しかった。一方、お客さんと接する機会は少なかった。「家を買ったり造ったりするのは一生に一度。壁を塗った家で育っていく子ども、れんがを積んだ花壇に植えられる花のことまで考え、一緒に造っていけたら」

 お客さんと一緒に楽しむ時間を大切にしたい、と1年前に独立した。1人で現場に赴く。雨漏りの補修に屋根へも上る。親方は引退し、おっちゃんたちはもういない。

 シャーッ、シャーッ―。飲食店の模様替えで、真っ白だった壁に黒色の土を重ねていく。厨房(ちゅうぼう)に立つ店主や、壁に向かって座るお客さんの姿を思い浮かべながら。

 写真・佐藤邦昭
  文・浜田悠伽

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