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2022.03.14 08:35

人生のサポーターに 美容師 渡辺博示さん(30)高知市―ただ今修業中

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「やすらぎの空間をつくりたい」と話す渡辺博示さん(高知市本町2丁目)

「やすらぎの空間をつくりたい」と話す渡辺博示さん(高知市本町2丁目)


 フランス語で「虹」という名の美容室を高知市内で営む。日が差し込む店内は、カフェバーのような雰囲気だ。

 客とテーブル越しに向き合って座り、希望を聞く。「こんな感じにします?」。スマホに映した画像を見た客が、弾んだ声で「お願いします」。カット台へと移動していく。

 「医師とか看護師とかと同じ、美容『師』。だから鏡越しの会話じゃなくて、目を見てカウンセリングするんです」

 軽やかなはさみの音と笑い声。客の目の前でカラー材を調合し、色ができあがる様を楽しんでもらう。「正解のない仕事。お客さんに気に入ってもらって、初めて正解になる。おもしろくて飽きん」と言う。

 実家は同市春野町の理容室。3人兄弟の末っ子で、はさみを握る父が客と談笑する姿を見て育った。高校時代に「美容師になろう」と決め、県内の専門学校へ。ただ「要領がいいタイプで、技術さえあればいいと思ってた」。20歳で上京。東京都板橋区の店で働き始めた。

 閉店後のシャンプーの練習で先輩に言われた。「やり方、順序は正しいけど気持ちよくない」。続けて言われた。「(店の昇進試験に)受かるためにシャンプーしてるんじゃない? 何を考えてるか手で分かるよ」。図星だった。

 先輩にシャンプーをしてもらった。手から思いが伝わってきた。「リラックスしてほしい、疲れをとってほしい。その気持ちを込めるのがプロだ」と教わった。「相手に寄り添う気持ちが大事」だと気付き、仕事の向き合い方が変わった。新宿や表参道の店で、腕を磨いた。

 23歳の時、知人のいる仙台に移った。全国規模の店でスタイリストとなり、しゃかりきに働いた。多い月には300人を担当し、売り上げがグループ約2千人中4番になったことも。やがて高知の系列店で店長にならないかと誘われた。「まだ高知に収まりたくない」と、仙台と高知の店の掛け持ちを会社に提案。前例はなかったが認められた。2カ月おきに往復する生活を始めた。多忙を極める中、「待ってくれるお客さんがいる」ことが支えになった。

 ただ、店は分業制。「もっとしっかり、お客さんと向き合いたい」「自分の理想の店を作りたい」思いが膨らんだ。掛け持ちを始めて2年後に退職し、古里高知に店を構えた。

 内装は「温かな空間」を目指し、大工の長兄や友人と一緒に手作り。カラー材をずらりと並べた木棚も自慢の一つだ。店の名には、客が新しい自分になる「架け橋」の思いを込めた。

好きな言葉

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 2021年1月の開業日。店の前には仙台の同僚らが贈ってくれた花がずらり並んだ。新型コロナ下での開業とあって積極的な誘客は難しかった。不安はあったが客が口コミで広げてくれ、常連も増えた。髪形を変えた客から「彼氏ができた」「仕事がうまくいった」。そんなうれしい報告も届く。

 目指すは「お客さんの、人生のサポーター」。流行を追うより、客に似合う髪を見つけたいと考えている。サービスと技術は、まだまだスキルアップできると信じている。一人一人の新しい可能性を開くために、きょうもはさみを動かす。

 写真・山下正晃
  文・玉置萌恵

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