2024年 04月19日(金)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.03.02 08:00

【露の核威嚇】理性を疑う愚かな行動

SHARE

 ロシアのプーチン大統領が戦略核を運用する部隊を「特別態勢」に置き、警戒レベルを引き上げるよう命じた。国際秩序への挑戦である隣国への武力侵攻に加え、核兵器の使用をちらつかせる暴挙に出た。
 安倍晋三元首相が「核共有」政策に言及するなど、日本の政界にも動揺が広がる。危機的な状況だからこそ、戦争被爆国としての立ち位置を見失ってはなるまい。ロシアへの批判を強める国際社会と連携し、冷静に対応する必要がある。
 プーチン氏はウクライナ侵攻前も演説で核戦力行使の可能性を示唆。米欧が国際決済ネットワークからロシアの一部銀行を排除する追加制裁に合意したことを受け、核兵器を背景に一段と緊張を高めてきた。
 ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)をにらんだけん制とみられる。ウクライナ側の抵抗や、強力な経済制裁へのいら立ちもあろう。対抗手段が限られるとはいえ、偶発的な核戦争の危険性を膨らませる脅しは、越えてはならない一線に踏み込んだと言える。
 核五大国はことし1月、核戦争の回避が「最大の責務」とうたう共同声明を出した。その核保有国としての責任や、国際平和を担う安保理常任理事国の信頼を自ら放棄したといってよい。
 国連のグテレス事務総長が「核兵器の使用を正当化できるものは何もない」とするなど、国際的な批判が強まるのは当然のことだ。国際社会は今こそ、結束してプーチン氏に理性ある行動を求める必要がある。
 ただ、唯一の被爆国として危機回避に主導的役割を果たすべき、日本の足元もおぼつかない。安倍氏はテレビ番組で、国内に米国の核兵器を配備して共同運用する核共有政策を検討すべきだと発言した。
 「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」。抑止力論を強調した形だが、現在も自民党最大派閥を率いる、被爆国の首相経験者である。見識が問われよう。
 岸田文雄首相はすぐに検討を否定した。国是の非核三原則に反するのは明白だから当然の対応だ。しかし自民党幹部が指摘するように「安倍氏個人の考え」と矮小(わいしょう)化できない面がある。
 非核三原則の法的根拠となる原子力基本法は原子力利用を平和目的に限るとしたが、2012年に大した議論もなく「わが国の安全保障に資する」との文言が追記された。
 さらに東京電力の福島第1原発事故後には、自民党の一部政治家らが原発と核抑止力を結び付け、原発維持を主張していた。政界には隠然として、核武装やその潜在的能力への志向が存在する。極めて危険な発想と言わざるを得ない。
 核兵器に核兵器で対抗すれば、核軍拡を招くだけだろう。それでは、いつまでたっても人類は核による破局の脅威から解放されない。緊張が高まっている今だからこそ、核廃絶への機運を高め、危機の回避につなげなければならない。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月