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2022.02.24 08:00

【新出生前診断】検査ビジネスの拡大懸念

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 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」の対象が拡大される。日本医学会の運営委員会は新たな指針を公表した。
 35歳以上に限ってきた妊婦の年齢制限をなくし、従来の認定施設の下に連携施設を設けるなどして検査を受けられる病院の数を増やす。
 背景には、もうけのために検査は提供するが、妊婦をフォローする体制のない無認定施設が急増し、トラブルが多く起きている問題がある。
 利便性向上の一方、「命の選別」という重い課題もはらむ。安易な普及を食い止める対策が重要となる。
 新出生前診断はダウン症など3種類の染色体異常を検査する。日本では2013年に導入され、学会の認定を受けた大学病院など全国約110カ所のみで実施が認められてきた。
 指針の見直しでは、現在の認定施設を基幹施設と位置付け、専門医が常勤しているクリニックなどを連携施設として新たに認定する。特に本県のような地方では、検査が受けやすくなることも期待される。
 市町村が妊婦に母子健康手帳を交付する際、新出生前診断を希望する場合は認定施設を利用するよう情報提供する仕組みも盛り込まれた。4月以降のできるだけ早い時期に運用を始める。
 胎児の染色体異常のリスクが上がる高齢出産が増える中、新出生前診断を無認定で提供する民間クリニックが急増。厚生労働省の調査によると、そうした54施設のうち半数が美容系クリニックだった。
 新出生前診断は採血で検査できる簡便さの一方で、「陽性」と判定された場合、妊婦は重い選択と向き合うことになる。診断の確定には、流産のリスクもある羊水検査などを受ける必要もある。
 陽性と確定した妊婦の多くが中絶している現実がある。本人が意思決定する上で正しい知識を持つことは何より重要だ。ダウン症などがどういう障害なのか。子どもの成長や生活実態、社会の支援体制など、よく理解してから判断する必要がある。
 無認定施設では、妊婦への情報提供や遺伝カウンセリングが不十分な実態がある。トラブルを防ぐためには、妊婦が検査を希望する場合、認定施設で受ける必要性を理解してもらうことが欠かせない。
 しかし、今回の指針見直しは、低価格などのサービスで集客を図っている無認定施設に対抗できる内容だろうか。専門家らから実効性を疑問視する声も上がっている。
 無認定施設での検査が主流となり、なし崩し的に新出生前診断が普及すれば、「命の選別」が進んで障害を排除する風潮にもつながりかねない。国や学会は無認定施設のルール違反に強い姿勢で臨むべきだ。
 医療技術や検査が進歩し、新たな倫理的問題が生じている。社会で広く考えるべき課題だが、今回の指針見直しの議論は非公開だった。学会の姿勢は問題と言えよう。
 新出生前診断のほか、着床前診断なども「命の選別」の懸念がある。生命倫理の議論を進めたい。

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