2022.01.15 08:00
【学術会議問題】説明責任は政府にある
政治と科学の対話再開に異論はないが、問題の本質は政府が恣意(しい)的な人事で学問の自由に介入した疑念がいまだに払拭(ふっしょく)されないことにある。「一連の手続きは終了した」という形式論で済む話ではない。任命拒否に至る経緯や理由が解明されない限り、同様の問題を繰り返す恐れがあろう。
学術会議は、行政や産業などに科学的な知見を反映させるため、政策提言を行ってきた。会員は学術会議が候補者を選んで推薦し、これに基づき首相が任命する。
政府は1983年、任命について「形だけの推薦制であって、推薦していただいた者は拒否はしない」と国会で答弁している。政府が学術会議の独立性を尊重してきた証しといってよい。
ところが、菅義偉前首相は2020年10月の会員改選時、新会員候補105人のうち6人の任命を拒否した。いずれも安全保障関連法や米軍普天間飛行場移設などを巡る政府対応を批判した研究者だった。
菅前首相は拒否理由を「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求める観点から」としたほか、出身や大学に偏りがあるとも述べ、説明は二転三転した。一方で、政府方針への反対運動を先導する事態を懸念したためだとする政府関係者の発言も報じられた。
政府が人事権を振りかざして異を唱える学者を排除したのなら、学問の自由や独立性への不当介入にほかならない。政府・与党は学術会議への年間約10億円の国費支出をちらつかせ、組織の見直しを打ち出した。「論点のすり替え」と言える。
問題の発覚以降、学術会議側は繰り返し拒否理由の説明を求めてきたが、菅前首相は応じることなく退陣した。岸田首相も6人の任命には否定的な姿勢を示していた。
学術会議との会談に応じた岸田首相だが、その対応は明確さを欠いた印象だ。記者団に菅前首相が最終判断したと強調した上で、学術会議との関係改善に向け、松野博一官房長官を窓口に対応を検討するよう指示した。菅前首相に配慮しつつ、現実的な解決を図ろうとしているのかもしれない。
もちろん、専門的な知見をさまざまな政策に反映できるよう、相互の信頼に基づいた政治と学術界のあるべき関係を取り戻す必要はある。新型コロナウイルスの感染対策が喫緊の課題となっている現状ではなおさらだろう。
しかし、学術会議側にとって、異論を唱えれば排除される余地を残しながら「建設的な対話」は可能なのか。経緯や原因を検証しなければ、強権的な手法に対する研究者や国民の不信は解消できまい。前内閣の決定であっても、説明責任は政府にある。