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2022.01.10 08:37

深くつながる寺に 僧侶 小野裕久さん(28)本山町―ただ今修業中 

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優しげな表情で読経する小野裕久さん。「心に響く説法をするためにも、もっと深く仏教を学びたい」と話す(本山町本山の東光寺)

優しげな表情で読経する小野裕久さん。「心に響く説法をするためにも、もっと深く仏教を学びたい」と話す(本山町本山の東光寺)


 香の匂いが漂う堂の中。きらきらと輝く多種多様な仏具を前に、伸びやかな声で経を唱える。時折、鉢の形をした鏧子(けいす)をボォーンと打ち、シンバルに似た鈸(はち)をシャーンと鳴らす。思わず背筋が伸びるような、厳かな時間が流れる。

 身にまとう法衣の色は、鮮やかな緑。「この色は若手僧侶の証し。年齢などの条件を満たすと紫になるんですよ。父から受け継いだもので」。およそ400年の歴史を持つ東光寺(長岡郡本山町本山)の僧侶になって4年目。「最初は知り合いも全然おらんくて寂しかったけど、少しずつ溶け込めてきたかな」。人懐っこく笑った。

 ◆

 生まれ育ったのは高知市。小学生時代、祖父が住職を務める東光寺にはたまに行く程度だったそうで「僧侶になることは全く考えていなかった」。小津高校を卒業後、松山大学経済学部に進む。住職を継いでいた父には「お坊さんの大学はどうや」と勧められたが、「寺の生活は厳しそうで、なじみもなかったし、普通の会社に就職したくて」。

 転機は大学4年時。就職活動で採用試験を受けながら、どこか違和感を覚えた。「すごくやりたい仕事があったわけじゃなく、何となく就職する感じ。それって何か違うな、って」。そんな時、父から「取りあえず僧侶の修行をやってみて、嫌だったら普通の仕事をしたらええ」と言われ、仏門に入ることを決心した。

 修行は1年間。京都市の寺、智積(ちしゃく)院に住み込み、仏教を一から勉強した。時には同期の修行僧と和歌山県の寺に1週間泊まり、午前9時から午後3時までほぼ休みなく、寺の周りを歩きながら大声で読経する修行にも励んだ。夜は狭い部屋で全員が雑魚寝。「まるで体育会系部活動の合宿。ご飯も自炊しなきゃいけないし、かなりきつかった」。苦楽を共にした同期とは、今でも一緒に旅行する仲だ。

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 東光寺では副住職の肩書を得たが「お坊さんとしては若すぎる」と気にしている。「説法をしても、『こんな若造が何言ってるんだ』って思われているんじゃないかと不安で…」。僧侶としての未熟さを痛感することも多くあるという。

 忘れられない出来事がある。ある檀家(だんか)の男性が亡くなった時のこと。通夜で読経を終えると、遺族の女性が涙を流しながら、「ええ声で読経してくださってありがとうございます」と頭を下げた。驚くと同時に、「遺族の悲しみを少しでも和らげることが、自分たちの存在意義だ」との思いを強くした。

 高知市などへ移り住む檀家が増える中、檀家と寺とのつながりが薄れつつあるとも感じている。「お金を多く払えんので、葬儀は自分らだけでやる」「何で法事ってやった方がいいの?」。そんなことを言われるたびに、「お布施は本当にお気持ちで構わないし、法事は私たちが亡くなった人を忘れないためにするもの」と説いている。

好きな言葉

好きな言葉

 「人が減っているからこそ、一人一人の話をより親身になって聞けるし、深くつながることができる」。それは寺の本来の姿でもある。「偉そうなお坊さんにはなりたくない。町の人が気軽に相談に来てくれる寺にしていきたいですね」。若々しく、ぐっと力を込めた。

 写真・山下正晃
 文 ・谷沢丈流

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