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2021.12.11 08:00

【税制改正大綱】問われる「分配」の本気度

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 自民、公明両党が2022年度の与党税制改正大綱を決定した。
 最大の焦点だった賃上げ税制は、法人税の控除率を2年間限定で大幅に引き上げ、優遇策を強化する。一方で、賃上げや国内での設備投資に消極的な大企業は投資減税の適用外とする。
 岸田文雄首相が掲げる「成長と分配の好循環」実現へ、いわばアメとムチで企業に対応を迫る。だが、安倍政権時に導入された同様の既存制度は持続的な賃上げにつながっていない。「分配」を政策の看板とする岸田政権の本気度が問われる。
 賃上げ税制は、賃金引き上げや従業員の教育訓練などに取り組んだ企業が優遇を受けられる仕組みだ。給与総額を前年度より3%以上増やした大企業と、1・5%以上の中小企業が対象となる。
 同様の現行制度は安倍政権下の13年度に導入されたが、減税の恩恵が小さく、効果を疑問視する声があった。このため法人税の控除率を強化し、大企業は現行の最大20%から30%へ、中小企業は25%から40%に引き上げる。
 賃上げや設備投資に消極的な大企業は、研究開発など費用の一部を法人税から差し引く投資減税の適用から外す。硬軟両面から、人への投資を促す格好だ。確かに、賃上げする企業の後押しにはなろう。
 とはいえ、控除率を2年間限定で引き上げることに、どれだけの効果があるのか。そもそも国内企業の約6割は赤字で、制度の対象となる法人税を納めていない。賃上げが可能かどうかは結局のところ、企業の業績次第といってよい。
 日本経済が停滞にあえいだこの30年、国内労働者の実質賃金は伸び悩み、近年は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国の平均を大きく下回っている。
 賃金が上がらないため消費は低迷し、業績が振るわない企業は内部留保を積み上げ、賃金を抑制する。ひいては、成長分野や技術革新に対する投資への積極性も失われる。日本経済では、こうした悪循環が続いてきた。
 安倍政権以降、政府が企業側に圧力を強めた「官製春闘」でもこの流れは変わっていない。長年にわたる停滞の要因をしっかりと見極めた対応が求められる。
 背景には将来不安があろう。高齢化がさらに進み、年金や医療保険制度などの先行きを悲観的にみる国民は少なくない。老後資金が不足していれば、収入の増加分を貯蓄に回す選択は自然な判断と言える。
 税制改正大綱は、住宅取得支援のローン減税延長なども盛り込む。だが、将来不安を拭えない限り、個別対策では一時的な消費の先食いに終わりかねない。
 複雑な要因が絡む経済停滞を脱するには、賃上げや成長分野の支援、将来不安の解消といった政策を一体的に推し進め、将来像を目に見える形で示す必要があろう。それが「新たな資本主義」を具体化することにもつながる。

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