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2021.12.05 08:00

【ベラルーシ】難民の命利用した蛮行

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 欧州連合(EU)諸国を目指す中東からの難民や移民、数千人がベラルーシ西部のポーランド国境に押し寄せ、進退窮まる状況が長引いている。本格的な冬を迎え、人道危機が刻一刻と高まっている。
 ベラルーシは、強権による市民への抑圧などで欧米から経済制裁を受け、国際社会で孤立する。欧米から妥協を引き出すため、難民を意図的に引き入れ欧州に圧力をかけているとされる。難民らの命を政治利用した蛮行というほかない。人道支援を急ぐ必要がある。
 ベラルーシは近年、迷走を続けている。「欧州最後の独裁者」と称されるルカシェンコ大統領が6選を果たした昨年8月の大統領選では主要な対抗馬が立候補を却下され、集計でも組織的不正が疑われた。
 再選挙を求めるデモは一時、10万人を数えた。政権側は武装した治安部隊を投入。約7千人を拘束し、複数の犠牲者も出した。
 さらに今年5月には、領空内を通過中の国際線旅客機を自国に強制着陸させる暴挙に及んだ。搭乗していた反政権派ジャーナリストを拘束するためとみられる。「国家によるハイジャック」は航空機の安全運航を妨げ、報道を弾圧する極めて悪質な行為といってよい。国際社会の厳しい批判は当然だろう。
 欧米による経済制裁の強化は自ら招いた結果と言えるが、今回の難民問題も経済低迷にひんしたベラルーシが反発して起こした可能性が否めない。制裁強化後の7月ごろから、難民が増えた経緯もある。
 難民の多くはイラクの少数民族クルド人で、隣国トルコの総領事館で観光ビザを取得し、ベラルーシに入国。ポーランドなどEU圏入りを目指しているとされる。
 人権や自由を重んじるEUとはいえ、2015年の難民危機の記憶はまだ鮮明に残っている。国境を開放し、膨大な人数を受け入れたドイツも、治安悪化の懸念などから政治的混乱に陥った。
 ベラルーシは「難民は合法的に国内にいる」と組織的関与を否定するが、そうしたEU側の「弱点」を見極めた上で難民らを引き入れ、揺さぶりをかけているのではないか。ポーランドなどは治安部隊を派遣して国境警備を強化し、流入を阻む。
 だが、国境で足止めされた難民らは、そんな思惑のはざまで命の危険にさらされている。劣悪な環境での寝食を余儀なくされ、食料も不足している。一部は帰国したが、問題が長期化すれば、気温の低下に伴って悲劇的な結果になりかねない。
 EU側は、不正が疑われる大統領選の結果を認めない立場で、ルカシェンコ政権との交渉は難しいとの指摘もある。ただ、欧米に責任の一端はあろう。中東情勢に武力介入し、国土を荒廃させて難民が発生する土壌をつくった。
 ベラルーシの強権政治はむろん看過できないにしても、難民らが直面する危機に時間的な猶予はない。人道的な立場から支援を急がなければならない。

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