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2021.11.29 08:00

【ドイツ新政権】理念実現へ問われる手腕

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 9月のドイツ連邦議会(下院)選挙で第1党になった中道左派「社会民主党(SPD)」など3党が、新たな連立政権の樹立で合意した。12月上旬にも正式に発足する。
 政策面では、気候変動対策の強化や核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加などで強いメッセージを打ち出した。約16年にわたるメルケル政権の保守政治との違いが、欧州や国際社会の方向性にどう影響するのかが注目される。
 SPDのショルツ氏を首班とし、第3党の環境保護政党「緑の党」、経済界に近い第4党の中道「自由民主党(FDP)」と連立を組む。政策は2カ月かけて擦り合わせた。SPDが訴えた最低賃金時給12ユーロ(約1550円)実現など各党の主張を織り交ぜ、全体的にはリベラル色の濃い内容となった。
 今夏の洪水被害を受け、総選挙で最大の争点となった地球温暖化対策で大きくアクセルを踏み込んだ。
 2020年の電源構成で47%を占める再生可能エネルギーを、30年までに80%へと引き上げる。二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電所の全廃目標も、従来の38年から30年への前倒しを目指す。
 メルケル政権の温暖化対策を「手ぬるい」と繰り返し批判してきた緑の党の姿勢を反映した格好だ。22年末までの脱原発を進める中で意欲的な目標だが、狙いはそれだけではあるまい。
 新政権は、経済政策と気候変動対策を一体的に担う重要省庁の新設で一致している。温暖化対策を加速する過程でインフラ整備などのノウハウを積み上げ、脱炭素ビジネスをリードしようというしたたかな戦略が透けて見える。
 注目されるのは外交、安全保障政策だろう。来年3月に開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会議にオブザーバーで参加する方針を打ち出した。実現すれば、先進7カ国(G7)で初めてとなる。
 北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツは日本と同じく、米国の「核の傘」の下にある。国内の基地には、米国の戦術核兵器が配備されている。
 NATO側の反発など紆余(うよ)曲折も予想されるが、国際的な軍縮進展へ「指導的な役割を果たす」との理念は評価されるべきだろう。
 ドイツの会議参加は日本に同調を促す圧力になるとの見方もある。唯一の戦争被爆国である日本にとっても「核なき世界」は悲願にほかならない。核禁止条約の実効性を担保するには核保有国が参加する必要がある。軟化を促す機会と捉え、日本も連携を深めたい。
 欧州最大の経済大国の方向性は、欧州や国際社会に少なからず影響を及ぼす。新政権の発足に伴い政界を引退するメルケル氏は長年、重要な局面で欧州連合(EU)の政策を主導し、存在感を示してきた。
 欧州でもロシアや中国との間で緊張が高まっている。新政権はその理念の実現へ、現実的な手腕も問われている。

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