2021.11.28 08:40
【夫はなぜ死んだ コロナワクチンを考える】(4)なおざりにしないで
南国市の60代男性がワクチン接種直後に亡くなった会場(南国市前浜)
厚生労働省の副反応検討部会の評価によると、接種との因果関係は「情報不足などで評価できない」が99%を占め、「接種が原因で死亡した」と確認された事例はない。
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国は副反応疑いの報告について「接種後に生じる症状などの傾向を把握するための制度」とし、個別の評価を遺族や医療機関に知らせる仕組みではないと説明する。
ワクチン接種直後に死亡した、南国市の60代男性の長男は「父は打った直後に亡くなったのに、関係が分からないと言われても…。その理由が知りたいのに、僕たちには国の誰が、どんな話をしているかも分からない」。
死因を誰より知りたい自分たち遺族が、議論の蚊帳の外に置かれている現状を嘆く。父の死後、国からは何の連絡もない。
男性の妻も「ワクチンのせいじゃなくても、注射針を刺したこと自体が何らかのきっかけになったのではないでしょうか」。今も困惑と疑念の思いが消せず、「私たちにとって『国』とか『医療』は大きすぎて、手が届かないんです」。
ワクチンに関する情報発信に取り組む医師らのプロジェクト「こびナビ」で事務局長を務める、千葉大病院の黒川友哉医師は「『99%は因果関係が分からない』と情報発信すること自体、報告制度に意味があるのか、評価がきちんとされているのかという疑念にしか結び付かない」と疑問を呈す。
因果関係の評価は「複数の専門家によってかなり厳密に行われている」とする一方、「国が発信している情報量そのものは多いけど、受け手が納得し、理解できる仕組みになっていない。国が今どんな分析をしているか、どこまで進んでいるか、もっと分かりやすく伝える必要がある」と指摘する。
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夫を亡くし、4カ月がたつ今も、妻は「事前にもっと情報を集めていたら」「打たせなければ…」と後悔の言葉を繰り返す。
この間も、国は「ワクチンを接種するメリットが、副反応のリスクを上回る」とし、国民に積極的な接種を促してきた。
妻は「ワクチンは自分のためにも、周りのためにも受けないかんと思う。それは理解しています」と話す。夫の死後、接種予約を2度キャンセルし、悩んだ末、2回目の接種を先日終えた。重い判断だった。
一方、県外では接種者に特典グッズが配られたり、クーポン券が配られたり…。副反応のリスクが軽んじられ、接種後に死亡した人や遺族の存在がなおざりにされているように感じるという。
県によると、新型コロナワクチンの接種対象となっている12歳以上の2回目接種率は、21日時点で全国83・8%、県内83・3%に達した。12月からは3回目の「ブースター接種」も始まる。
予防接種法は国民に接種の「努力義務」を課しているが、副反応のリスクを負うのは接種を判断した私たち国民一人一人だ。ワクチンの効果を喧伝(けんでん)する以上、国にはリスクに対する丁寧な説明と、国民の不安に寄り添う対応が求められる。
「このまま、夫の死は忘れられていくんでしょうか…」。接種が進む陰で、悲しみと疑念を抱えた遺族の存在が、社会から取り残されることがあってはならない。(報道部・海路佳孝)=おわり