2021.11.26 08:00
【ロシア衛星破壊】行動規範づくりを急げ
ロシア側は破壊の手段を明らかにしていないが、米航空宇宙局(NASA)はミサイルが使われたとの見方を示した。軍事技術を誇示する行為とみて間違いあるまい。宇宙空間の利用に関する国際的な行動規範づくりが急がれる。
実験で破壊されたのは、旧ソ連時代に打ち上げられた人工衛星という。確認できる大きさでも1500個以上の破片となり、拡散したとみられる。
ロシアは否定するが、NASAの観測では破片がISSの近くを通過し、滞在する飛行士は一時、接続されている宇宙船への避難を余儀なくされたという。NASAは飛行士の安全のため、破片の監視を続けるとした。
運用を終えた人工衛星や、打ち上げの際に切り離されたロケットなどのスペースデブリは増え続け、1億個を超えるデブリが浮遊しているとみられる。ISSのほか、運用中の衛星に衝突する事故の恐れは年々高まっている。
通信衛星などに衝突すれば、現代社会は大きな混乱に陥ることになろう。近い将来、対応する必要があるものの、除去技術は発展途上の段階で実用化のめどはたっていない。そうした状況での破壊実験は、危険性をむやみに高める行為にほかならない。
ロシアの破壊実験が軍事目的を持っていたのは確かだろう。宇宙はサイバー空間などとともに安全保障の「新領域」と呼ばれ、各国が技術開発を競う場となっている。
宇宙開発の国際合意では、米ロのほか日本や中国など主要国が批准する「宇宙条約」がある。国際的には天体上を除いて「非侵略の軍事的利用は可能」との解釈もあるが、平和利用が基本原則だ。
ただし、1967年に発効した条約だけに、想定できていなかった課題も多い。宇宙にある資源の扱いやスペースデブリの安全管理などに関する「アルテミス合意」に日本も参加するが、米国主導の枠組みにすぎず、まだ国際ルールと言いがたいのが実情だ。
ロシアの行為に対する批判は当然だとしても、米国や中国もミサイルで衛星を破壊したことがある。米国は2002年、中ロがジュネーブ軍縮会議に共同提出した、宇宙空間での兵器配備を禁止する条約案を拒否した経緯もある。大国それぞれのエゴが、宇宙空間の平和利用を危うくしている。
互いに批判し合うだけでは、宇宙での軍拡競争がますます激化しかねない。宇宙条約で定める平和利用の原則に立ち返る必要がある。宇宙開発に携わる全ての国を対象としたルールづくりを急ぎたい。