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2021.11.25 00:04

【K+】vol.179(2021年11月25日発行)

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K+ vol.179 
2021年11月25日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter181 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.181 森本真由
・日々、雑感 ある日 vol.18
・特集 伝え継ぐ道具|笹岡鋏製作所
・Information
・フランスからの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉27
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.53|エガ二(ノコギリガザミ)@高知市

・気の向くままに お気軽 山歩き ;34
・Sprout Table vol.4 The Roots
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・+BOOK REVIEW
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真


特集
伝え継ぐ道具
笹岡鋏製作所

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真

華道家元池坊が使う生花鋏

華道家元池坊が使う生花鋏


研ぎにこだわり生み出される
鋏(はさみ)鍛冶師の親子が作る打ち刃物は、
次の代まで受け継ぎたい一品。



世代を超えて伝えたい道具

 その切れ味が海外でも評価される、日本の鍛冶師が作る打ち刃物。手入れをすれば長持ちし、親から子へと手渡し、受け継ぐこともできる道具です。
 この伝統的打ち刃物の産地の一つである高知。江戸時代に技術が発展したとされる「土佐打刃物」は、職人が鉄を焼いて手打ちで形を自在に作る自由鍛造が特徴。その土佐打刃物の伝統と、大阪・堺市で得た技を生かし、鋏を中心に作る鋏鍛冶師の親子がいの町にいます。
 1970(昭和45)年創業の笹岡鋏製作所の初代・笹岡英二さんと、2代目の悟さんです。元は華道家元池坊の生花鋏を作る専門鍛冶でしたが、需要に応え、今は植木鋏や刈り込み鋏、包丁などの刃物も広く製造しています。
 工場で、日々、黙々と作業をする2人。地金を焼いてたたいて足を伸ばし、刃物の要である鋼を鍛接し、鋏の形へと成形していきます。研ぎの最終工程・刃付けは、以前は機械を使っていましたが、より切れると植木職人の助言を受けて手研ぎに変えたそう。時代やお客さんの声に合わせて今も変化を続けます。
 これから力を入れたいのは、作って、直して、最後まで製品の面倒が見られる鍛冶屋の仕事を次世代につなぐこと。



親子で作り上げる打ち刃物へ

 笹岡鋏製作所は、英二さんが集団就職で大阪・堺市の鋏鍛冶師の下で働きだしたことが始まり。12年の修業の後、高知に戻って独立した英二さんは、堺の師匠の仕事を分けてもらって生花鋏のみを作り、業者に卸していました。時代は、作れば売れる高度経済成長期。しかし、次第に需要が減少。英二さんは、工場に店舗を構えて直売を始め、お客さんの声に応えて鋏以外の刃物も作り、修理まで受けるようになります。
 一方、家業を継ぐとは考えずに一般企業に就職していた悟さん。結婚し、家族ができて考えは変わります。「自分を不自由なく育ててくれた父の仕事が魅力的に思え、家業に入りたいと頼み込み、許してもらいました。ただ、働きだした当時は、父から言われた作業をただこなすだけでした」と振り返ります。


地金を約1200度の炉で焼き、ベルトハンマーでたたいて、鋏の足の部分を伸ばす最初の工程。主に英二さんが担当

地金を約1200度の炉で焼き、ベルトハンマーでたたいて、鋏の足の部分を伸ばす最初の工程。主に英二さんが担当


製品を削って形を大まかに整える工程。火花が飛び散る中で作業する英二さん

製品を削って形を大まかに整える工程。火花が飛び散る中で作業する英二さん



ダイヤモンドとセラミックの砥石(といし)各2種類を使って丁寧に研いで仕上げる刃付けの工程。手で研ぐことで鋭く、細かい刃になるそう

ダイヤモンドとセラミックの砥石(といし)各2種類を使って丁寧に研いで仕上げる刃付けの工程。手で研ぐことで鋭く、細かい刃になるそう


最後に、笹岡鋏製作所の印が打ち込まれて完成へ

最後に、笹岡鋏製作所の印が打ち込まれて完成へ


 いの町の商工会の職員さんに声を掛けられ、あちこちのイベントに出店し始めたことで悟さんの仕事への姿勢は大きく変化します。「事業者の仲間や、イベントに来たお客さんが商品を買ってくれました。使う人の顔が見え、その反応を直接聞けると、それが励みになり、より良いものを作りたいと思うようになりました」
 それから、取引先である京都の刃物店で手研ぎの方法を学び、自分が思う切れ味と見た目になるよう、仕上げの研ぎにこだわるようになった悟さん。「父は作るのがうまくて早い。反対に自分は一つ一つに時間をかけて丁寧に仕上げるのが向いてました。今は父が最初の工程を作り、僕が仕上げる。笹岡鋏製作所の製品は、2人の合作です」


プロフィール
笹岡英二さん
15歳から大阪・堺市の鋏鍛冶屋で修業し、1970(昭和45)年、いの町に工場を構えて独立。生花鋏をはじめ、植木鋏、くわ、包丁などを手打ちで製造する。須崎市出身。79歳

笹岡悟さん
2代目鍛冶師。大学卒業後は一般企業に勤め、25歳で家業に入る。英二さんの下で学んで技を身に付け、現在は営業、インターネット販売も担当。いの町出身。49歳





手研ぎへのこだわり

 全国でも数少ないという鋏鍛冶屋。17年前にインターネット販売を始めたところ、各地の植木職人から植木鋏の注文が入るようになったと言います。「植木職人さんは、図面を送ってきたりして、その人好みの鋏を求めています。鍛冶屋には型がなく、自由に作れるので、希望に応えられるのが強みです」。最近は、海外からの注文も。職人と直接やりとりできることも喜ばれ、インターネット販売は売り上げの柱の一つに成長しました。
 また、特に地元の人向けに「研ぎ直し」に注力する悟さん。中でも持ち込みが多いのは包丁です。ステンレス素材も含め、どのメーカーの包丁も手研ぎで対応します。「家庭にある包丁をきちんと研げば、新品のように使えます。職人が研いだ切れ味をぜひ感じてほしいです」

刃物の切れ味を決める鋼を地金に打ち付けて接合する鍛接の工程

刃物の切れ味を決める鋼を地金に打ち付けて接合する鍛接の工程






自分用に、大切な人用に、贈り物にしたい一品。注文は1カ月前までに。依頼すれば氏名の彫金もしてくれる

自分用に、大切な人用に、贈り物にしたい一品。注文は1カ月前までに。依頼すれば氏名の彫金もしてくれる


デザイナーと共作し、水玉とストライプの柄の包丁を販売。女性や若者など新しい層に土佐打刃物を知ってもらえるように

デザイナーと共作し、水玉とストライプの柄の包丁を販売。女性や若者など新しい層に土佐打刃物を知ってもらえるように



次世代の職人をサポートする

 時代に合わせ、新しいことを取り入れてきた悟さん。それを英二さんは後押ししてくれると言います。「早い段階で経営も任され、責任感が生まれました。お客さんの刃物のメンテナンスを続けられるよう、後継者を将来必ず育てたい」と悟さんは話します。
 また、なり手が減る次世代の鍛冶師にも思いを向けます。「鍛冶屋は、人の生活や仕事に役立つ道具を生み出せるやりがいがある仕事と思う。続けさえすれば技術は必ず身に付く。鍛冶屋として生きたいけれど経営などに悩みがある人がいたら、自分の経験を伝え、サポートしたいです」
 親から子へと伝えられた技は、また、次の代へと。鍛冶師が生み出す道具は、丈夫で長く使える一品。手にした人の元で愛用され、次の代でも使われ続けることでしょう。

最初の10年間は下積みで、技術を身に付けたという悟さん。今は、英二さんと役割分担をしながら作業する

最初の10年間は下積みで、技術を身に付けたという悟さん。今は、英二さんと役割分担をしながら作業する


鋏の持ち手を形成する肩出し。約千度のコークス炉で焼き、熱いうちにたたいて形を作る

鋏の持ち手を形成する肩出し。約千度のコークス炉で焼き、熱いうちにたたいて形を作る



◎笹岡鋏製作所
いの町池ノ内85-7
TEL 088-892-1450 
https://www.hasamiya.jp
営/8:30〜18:00 休/日
<取扱先>土佐せれくとしょっぷ てんこす(高知市)、
土佐和紙工芸村「くらうど」(いの町)、自社HPなど

掲載した内容は発行日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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