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2021.11.17 08:39

災害時のトイレ、準備してる? 基本を解説 各自“出し方”確保を【地震新聞】

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 世界ではトイレのない劣悪な衛生環境により、いまだ多くの人が命を落としている―。国連は11月19日を「世界トイレの日」と定めている。この日を前に今回は、南海トラフ地震が発生すれば間違いなく遭遇するトイレ問題を考えたい。専門家たちは、「出す」ことの備えは、「食べる」ことと同じように重要だと口をそろえる。

簡易トイレの使い方を学んだ防災訓練(高知市二葉町)

簡易トイレの使い方を学んだ防災訓練(高知市二葉町)


■当然、使えない

 「えー、皆さん、震度7の地震が来ると電気は切れ、水も止まります。当然、トイレは使えません。かといって、我慢するわけにはいきません」

 7日、高知市下知地区で防災訓練が行われた。マイクを握った自主防災会のメンバーが“避難”してきた参加者に呼び掛けた。

 もよおした場合はどうするか。そこで登場するのが便座の付いた簡易トイレだ。便座をビニール袋で覆い、排せつ後に凝固剤を入れて固める―という手順をメンバーらが説明する。

 「どこで売りゆうが?」「折り畳み式がええねぇ」。76歳の独り暮らしの女性が熱心に質問していた。南海トラフ地震時の「避難所のトイレ」が不安で仕方ないといい、「人数に対し極端に数が少ないでしょ? 排せつ頻度は人によって違うし、おなかを壊すかもしれない。他の人に気も使うし、できればトイレは自分で解決したい」と話す。

 県の保健師、松岡智加さん(54)は2004年の新潟県中越、11年の東日本、16年の熊本の3地震で現地の支援に当たった。

 宮城県の南三陸町ではグラウンドに穴を掘って、ブルーシートで囲ったトイレを使ったという。「風でシートがふわふわめくれそうで。使うのはためらわれた」と振り返る。

 熊本では、避難所に身を寄せる高齢夫婦が仮設トイレの利用をためらっていた。「水分を控え、パン中心の食事も影響して便秘になっていた。すぐに福祉避難所に移れるよう手配しました」

■脆弱性と抵抗感
 大震災時、トイレはどうなるか。高知市などによると、戸建てやマンションで考えられる状況はこうだ。

 まず、断水で便器の中は流せない。手も洗えない。下水道管が壊れれば、排せつ物が詰まったり逆流したり。浄化槽は停電で空気を送り込めず、分解が不十分な汚水が側溝などにあふれて衛生環境が悪化する―。

 つまり水洗トイレは使えない。行政は下水道管やし尿処理施設の地震対策を進めているが、大災害後は「流さないが基本」となる。

 内閣府によると、東日本大震災後に仮設トイレが3日以内に届いた自治体は全体の3割にとどまる。

 大正大学(東京)の岡山朋子教授らの調査では、発災から6時間以内に7割以上がトイレに行きたくなる。夜間に屋外の仮設トイレに行こうとした女性が性犯罪に遭ったこともあるといい、「家庭も事業所も災害用トイレを確保すべきだ。『人数×6回×3日』が目安」と呼び掛ける。

 日本は温水でお尻を洗うトイレ様式も普及し、衛生基準は高い。「だからこそ災害時に脆弱(ぜいじゃく)性が出る」と、防災心理に詳しい兵庫県立大学の木村玲欧教授は言う。仮設トイレがあっても、多くの人が使う状況で清潔に保つのは難しいという。

 「汚いトイレ」に抵抗感を抱き、排せつをためらい水分を控え、エコノミークラス症候群を起こす―。こうした事例は熊本地震でも報告されている。

 木村教授は言う。

 「最終的に個人の備えが重要。食べ物や飲み物と同様、各自が『出す』備えをしないと命にかかわる」

■購入後の準備を
 高知市内のホームセンターには、災害時の衛生コーナーが設けられている。排せつ物を包むためのビニール袋や凝固剤、木や段ボール、プラスチック製の簡易トイレなどが並ぶ。
ホームセンターで購入できる簡易トイレ。手前からプラスチック段ボール製、県産材製など(高知市桟橋通5丁目の「ブリコ桟橋店」)

ホームセンターで購入できる簡易トイレ。手前からプラスチック段ボール製、県産材製など(高知市桟橋通5丁目の「ブリコ桟橋店」)

トイレにかぶせる袋や処理剤のセット

トイレにかぶせる袋や処理剤のセット


 フタガミの防災アドバイザー、楠瀬淳司さんが言う。「大きめのビニール袋で便座を覆い、その上で排せつ用のビニール袋をかけて使う。下の袋は汚したときの“保険”。プラスチックなど洗える素材を選ぶのもいい」

 強調したのは「災害後にできることは少ない」ということ。「特にトイレは事前にしっかり考えて。商品を買って終わりではなく、備品の構造を理解すれば応用もできる」
「強度と座り心地を考えれば自作もできます」。農業用コンテナと板を組み合わせた簡易トイレ

「強度と座り心地を考えれば自作もできます」。農業用コンテナと板を組み合わせた簡易トイレ


 例えば、凝固剤がない状況では、おむつや細く破いた新聞で排せつ物の水分を吸収させることも可能。不足するトイレットペーパーも1巻200メートル(通常は50メートル)の長期保存用を「1人につき1週間に50メートル」を目安に備蓄することが有効だという。
県内メーカーが生産している真空包装の備蓄トイレットペーパー

県内メーカーが生産している真空包装の備蓄トイレットペーパー


 可燃ごみ収集日の朝、記者は自宅トイレに購入したビニール袋をかぶせて挑んだ。

 水中に沈まないそれは、想像以上の臭いを発した。急いで凝固剤を振りかけ、うろたえながらビニール袋を縛り、気がつくと念入りに手を洗っていた―。

 大災害時は手も洗えない。この邪悪な臭いをどうにか改善できないか。それより、ビニールはどこに置いておこうか…。「?」が次々と浮かぶ。

 避けて通れないが、つい後回しにしがちなトイレ問題。自分なりの“出し方”を考えてみませんか。(八田大輔、村上和陽)


《防災最前線》地域が進める家具固定
蕨岡自主防災組織 (四万十市)
各戸の家具固定に取り組む蕨岡自主防災組織のメンバー(四万十市蕨岡)

各戸の家具固定に取り組む蕨岡自主防災組織のメンバー(四万十市蕨岡)

 四万十市の中心街から北に車で10分ほど進んだ山あいに、約450世帯が暮らす蕨岡地区がある。ここでは自主防災組織の有志が地域を一軒一軒回って家具の固定を進めている。

 その一人、松田久義さん(73)は防災士の資格を持つ。8年ほど前から、2人一組で周囲の高齢者宅を回り始めた。「『もういつ死んでもええけん』と断られるので、まずは説得からだった」

 1軒につき作業は2時間ほど。1人が電動ドライバーなどで冷蔵庫や食器棚を金具などで固定する。その間、松田さんは室内を巡って「この花瓶の場所は危ない」「枕元には物を置かん方がええよ」と助言していく。

 住民の負担は材料費のみで、安ければ千円ほどで済む。市も人件費を出して活動を支えており、もう80軒ほどの固定を終えた。

 「防災一般の知識は大切。だけど、一軒一軒の状況に合わせた対策の方がもっと重要」と松田さん。

 メンバーで市防災士会会長も務める谷口隆一さん(69)の本職は大工なので、作業はお手の物だ。「顔見知りってこともあり、地元の人も安心して頼めると思う。それに、住民がいつもどこで寝ようか、とか知っちょいたら、いざという時に役に立つかもしれん」

 次は、各戸の裏山をチェックするのはどうだろう。それを基に避難路を考えるワークショップを開いてはどうか―。メンバーたちは活動と集落の先を見据える。 (幡多支社・今川彩香)


《そな得る26》個人備蓄わずか19%
 県内の各自治体は災害時に備え、吸水シートや凝固剤が入った袋を便座に付ける「携帯トイレ」と、持ち運べる便座付きの「簡易トイレ」の備蓄を進めている。いずれも「流さないトイレ」だ。

 高知市は、発生頻度の高いL1クラスの地震でも7万7千人の避難者が想定される。避難者1人につき「1日5回×3日分」を上回る171万1千回分の携帯トイレと、約3千個の簡易トイレを避難所などに備える。

 さらに、排せつ物を下水道管に直接流したり、地下にためたりできるマンホールトイレの整備にも着手。浸水区域外の39避難所に設置する予定で、本年度は旭小学校など8カ所にできた。

 県によると、27市町村が想定される避難者分の簡易トイレなどを確保済みだ。

 ただ、これらは自宅が浸水したり倒壊したりした避難者に使うことが前提。避難の必要がなくても、断水や停電で自宅のトイレが使えなくなった人たちの分は含まれない。

 県はトイレも食べ物と同じで、「最低3日分の個人備蓄を」と呼び掛ける。例えば、4人家族なら「4人×1日5回×3日」で計60回分。しかし今年の県民意識調査では、携帯トイレや簡易トイレを備蓄している人は19%にとどまる。

 被災地のトイレを調査した大正大学の岡山朋子教授は「災害直後はトイレが汚物まみれになる事態も起こる。自分のトイレは自分で準備しておくことが必要だ」としている。(村上和陽)

高知のニュース 防災・災害 地震新聞

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