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2021.11.08 08:40

ただ今修業中 「山荘しらさ」スタッフ 新名桜さん(46)高知県いの町

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「山荘の魅力は、お客さんとの対話や距離の近さ」とほほ笑む新名桜さん(いの町寺川)

「山荘の魅力は、お客さんとの対話や距離の近さ」とほほ笑む新名桜さん(いの町寺川)


山岳観光の聖地目指す

 見つめる先は、西日本の最高峰、石鎚山(1982メートル)の頂上。吐く息が白くなる10月下旬の早朝、きゅっと表情を引き締め、登山口から歩き始めた。

 勤め先は山荘しらさ(吾川郡いの町寺川)。4月のリニューアルオープン時に加わったばかりの新スタッフだ。トレイルランが趣味で、仕事の合間には1人で石鎚山頂まで駆ける。多い日は3往復するというから、なかなかの健脚だ。

 この日選んだのは、登頂ルートで最難関の一つとされる「御来光の滝」ルート。いてついた登山道に苦しむ仲間を横目に、背丈ほどに茂ったササをかき分け、大きな岩を跳び越えて進んでいく。「もしかしたら、このルートで登山したいってお客さんもいるかもしれない。だからこの登山も、仕事に生かせるんです」。けろっとした表情で歩を進めた。

 ◆

 香川県出身。中学時代に母親を亡くし、家事を担うため部活動に入らず「アウトドアとは程遠い生活」を送った。大学卒業後、同県で薬局の事務職などに就き、やはり運動とは縁遠い日々を送ってきた。

 転機は40歳ごろ。高校の同級生からハーフマラソン出場を誘われた。「子どもに常々、挑戦する大切さを話していたので、断れなくて」と参加。何とか完走したものの、同級生にはタイムで負けた。驚いたのは、当時中学生だった長女が泣いて悔しがったこと。「どうせやるなら勝ってや」。その言葉で再挑戦を決意し、ランニングスクールに通い始め、各地の大会に挑んでいった。

 いつしか走る楽しさに目覚め、アウトドアスポーツの世界へとのめり込んでいた今年2月、しらさのスタッフ募集を知る。山小屋には行ったこともなく、どんな仕事か想像もつかなかった。しかも対象は男性だけ。それでも「毎日同じことの日々を変えたかった。直感で決めました」と応募し、単身赴任で山荘に住み込んでの勤務が始まった。

 ◆

好きな言葉

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 仕事は主に、食事の準備やチェックインなどの受け付け。客と接する機会が多く、「紅葉の時季はいつ」「登山ルートを教えて」といった質問をしばしば受ける。が、当初は何一つ対応できず、歯がゆかった。

 「まずは、自分が山を知らないと」。業務の合間のほか、早朝にもヘッドライトを着けて近くの山に登った。次第に登山者の顔見知りが増え、自分が行ったことがない道の状況や、季節の花の名前を教えてもらうようになった。「この数カ月での人との出会い、全国にできた友達は自分の宝物。ここで働いてよかった。40歳を過ぎて青春してます」

 来た当初、登山への関心はさほど高くなかったが、夜空に瞬く星、季節や時間で毎回異なる石鎚山系の景色を目にして、一気に魅了された。少しでも多くの人と共有したい―。そんな思いから、雨天時だからこそ楽しめるツアーや、レベル別の山荘周辺散歩コースなどの開発を目指しているという。

 思い描くしらさの理想像を聞くと「山岳観光の聖地。もっと認知度を上げたい」と、力強い言葉が返ってきた。目指す頂上に向けた山登りは、まだ始まったばかりだ。

 写真・佐藤邦昭
  文・山崎友裕

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