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2021.10.28 00:05

【K+】vol.178(2021年10月28日発行)

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K+ vol.178 
2021年10月28日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter180 中西なちお
・気の向くままに お気軽 山歩き ;33
・特集 12カ月の思い出|カゴノオト
・フランスからの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉26
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.52|フィンガーライム(フルーツキャビア)@土佐市
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.180 岡﨑壮
・日々、雑感 ある日 vol.17

・夏葉社 島田 潤一郎|第57回|読む時間、向き合う時間
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第二十六回
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・+BOOK REVIEW
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真


特集
12カ月の思い出
カゴノオト

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真


人とのつながりを大切に、
四万十の四季を感じながら暮らす夫婦の
1年分の旬が詰まったシュトーレン。



その年の旬を詰め込んで

 年に1度、クリスマスの1カ月前から少しずつスライスして食べながら、クリスマスの日を待つドイツ菓子のシュトーレン。「自分への、家族へのご褒美に。1年間のお疲れさまの気持ちとともに味わってほしい」と、このシュトーレンを作って届ける夫婦がいます。四万十町窪川で焼き菓子店「カゴノオト」を営む前成照さんと小清水緑さんです。2人のシュトーレンには、これまでに四万十で出合った12カ月分の旬の果実が詰まっています。
 2011(平成23)年、東京から同町に移り住んだ2人。それまで、成照さんはホテルのコック、緑さんは障害がある方の施設のソーシャルワーカーでした。「ホテルで働いていた頃、材料となる野菜など作り手の顔が分からないことに違和感がありました。四万十町で暮らし始めると、近くで季節の作物が手に入って豊かに感じました。また、それを作る農家さんともたくさん出会って。その方の話を聞くと、この農家さんの育てた物を使わせてもらいたいと思うようになりました」と成照さんは話します。
 夫婦が大切にするのは、身近にいる農家さんの作物を使い、四万十の四季をお菓子に変えて届けること。

定期的に手伝ってくれるスタッフと。「より楽しく一緒に働けるから」と会話の時間を大切にしています

定期的に手伝ってくれるスタッフと。「より楽しく一緒に働けるから」と会話の時間を大切にしています



全国に四万十の味を送る


 東日本大震災をきっかけに、自分たちで暮らしをつくれる環境に住みたいと四万十町に移住したという2人。自営すると決めていて、2012(平成24)年から十和でカフェを営み始めます。そこでは緑さんがお菓子作りを担当。焼き菓子に加え、昔から好きだったシュトーレンを、近所の人にもらった果物などを使って作っていました。それをSNSで紹介すると全国から注文が入るように。焼き菓子作りが忙しくなり、18(同30)年にカフェを閉め、窪川に工房兼ショップを移転オープンさせます。その裏には2人のある決意がありました。
 成照さんは、農家さんの思いを伝え、作る人と食べる人の距離が近づくような場を、緑さんは、障害のある方の個性をそのまま紹介できる環境をつくりたいという思いがいつも心にあります。カフェを営んでいた頃は、やりたいことをやろうとするものの、生計を立てるのに精いっぱいでした。「こつこつ地道に営みを続ける農家さんのように、まずは自分たちの仕事を成り立たせることが優先」と考えを改め、主軸をインターネット販売へと転換します。
 新たな道を歩み始めたカゴノオト。そのメインの商品に据えたのがシュトーレンです。「遠くの人にも四万十の味と、生産者さんの思いも届けられるお菓子だと思いました」。それから3年。スタッフが増えた分、農家さんを訪ねる時間が以前よりつくれるようになった成照さん。障害のある方に商品パッケージのデザインをお願いしているため、定期的に施設を訪れられるようになった緑さん。やりたいことと仕事が少しずつリンクし始めています。







旬の果物を新鮮なまま載せて焼き上げた季節のタルトや、夏限定の冷たいシュトーレンなど冬の時季以外で楽しめる新たな商品も

旬の果物を新鮮なまま載せて焼き上げた季節のタルトや、夏限定の冷たいシュトーレンなど冬の時季以外で楽しめる新たな商品も



プロフィール
前成照さん
24歳で上京し、音楽活動をした後、ホテルのコックとして働く。2011(平成23)年に四万十町に移住し、カゴノオトをオープン。現在は、菓子製造を主に担当。広島県出身

小清水緑さん
東京の障害がある方の施設でソーシャルワーカーとして勤めた後、四万十町へ移住。シュトーレンを最初に作り始める。現在は、ECサイトの管理がメイン担当。神奈川県出身




時間がたつほどに増す味わい


 一年を通して行われるシュトーレンの仕込み。4月はイチゴ、5月は小夏というふうに毎月旬の果物を仕入れ、砂糖漬けなどにして加工。12種類をラム酒に漬け込み、保存します。発送開始は毎年11月下旬、その日に合わせて9月下旬から焼き始めます。時間がたつにつれて生地に素材の味がなじんでうま味が増すため、2カ月ほど熟成させ順次発送へと。「使う果物の総量は決まっていますが、毎年それぞれの果物の仕入れられる量や味が違うので、年々で異なる味が楽しめます」と成照さん。昨年は、新型コロナウイルスの影響で高知に帰れない人が多く予約してくれたそう。「誰の心にも故郷があります。故郷を思い出す味であれたら」と緑さん。お客さんの一年の楽しみになるようにと、思いを込めて作ります。

一回に作る量は100本ほどというシュトーレン。仕込んだ果物の量は決まっていて失敗できないため、毎回緊張感を持って作業するそう

一回に作る量は100本ほどというシュトーレン。仕込んだ果物の量は決まっていて失敗できないため、毎回緊張感を持って作業するそう


梅、ブルーベリー、栗、柚子など、1年間保存してきた果物のラム酒漬けを混ぜ合わせて

梅、ブルーベリー、栗、柚子など、1年間保存してきた果物のラム酒漬けを混ぜ合わせて





人とのつながりを大切に


 最近、地元から県外の方までが商品を買いに来てくれるようになり、町のお店になれたうれしさがあるのだそうです。店舗に加え、全国のお客さんとのコミュニケーションに重きを置く2人。「手紙を下さる方もいて、そのやりとりがありがたくて。遠方のお客さんとも近い距離感で交流をしたいし、スタッフや農家さんに会えるリアルな機会もつくっていけたら。それを形にできるようになってきたように思います」。目指すことへと一歩ずつ。この土地での暮らしと、人とのつながりを大切にしながら夫婦は前へと進んでいます。
 1月から12月まで、一年の出来事を思い出しつつ味わいたいカゴノオトのシュトーレン。いろいろあった今年に感謝して、来年もまた幸せな年になるようにと願いながら。

屋号「カゴノオト」には、いろいろな人が出入りして、多様な「オト」を奏でる「カゴ」のような存在でありたいという思いを込めました

屋号「カゴノオト」には、いろいろな人が出入りして、多様な「オト」を奏でる「カゴ」のような存在でありたいという思いを込めました


移住した頃、カフェをしながら野菜も育てていた2人。農業の大変さを知り、農家さんをより尊敬。自ら育てるのはやめ、身近な人から仕入れることを選びます

移住した頃、カフェをしながら野菜も育てていた2人。農業の大変さを知り、農家さんをより尊敬。自ら育てるのはやめ、身近な人から仕入れることを選びます





◎カゴノオト
四万十町土居6
TEL 080-8730-9038
営/木・金・土 10:00〜16:00
インターネット販売
https://www.kagonote.com
※今年分のシュトーレンは数に限りがあるので、お早めにご予約ください

掲載した内容は発行日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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