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高知新聞PLUSの活用法

2021.09.23 00:05

【K+】vol.177(2021年9月23日発行)

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K+ vol.177 
2021年9月23日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter179 中西なちお
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第二十五回
・特集 選べる豊かさ|むかし暮らしの宿 笹のいえ
・なにげない高知の日常 高知百景
・フランスからの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉25
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.51|四万十栗@四万十市
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.179 岩﨑知子
・Sprout Table vol.3 Su-jigwa す~じぐわぁ
・夏葉社 島田 潤一郎|第56回|読む時間、向き合う時間
・Information
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント
・+BOOK REVIEW

河上展儀=表紙写真


特集
選べる豊かさ
むかし暮らしの宿 笹のいえ

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真


田舎で広がった選択肢。
選ぶことを
楽しむ一家の循環型の暮らしに触れる旅。


友達の家で過ごすような宿

 土佐町の人里離れた山間に、一風変わった宿「むかし暮らしの宿笹のいえ」があります。そこは、宿主の渡貫家の日々に仲間入りできるような、友達の家に遊びに来たような感覚になれる宿。
 渡貫家は、千葉県出身の渡貫洋介さんと東京都出身の妻・子嶺麻さん、5人のお子さんの大家族。2013(平成25)年に土佐町に移住し、空き家を改修して暮らし始め、15(同27)年から住まいを宿としても開放しています。
 土佐町に来たのは、東日本大震災がきっかけ。これまでの生活を見直し、「自分たちでできることはする暮らしをしたい」と、この地で循環型の暮らしを営み始めました。沢から水をくみ、まきで火を起こして料理する。風呂は、まきで湯を沸かす五右衛門風呂。トイレは、排せつ物を堆肥として土に返すコンポストトイレです。
 食料の米と野菜を育てるのは主に洋介さん。家族が食べる量だけを作ります。子嶺麻さんは、収穫した食材をソースやジャムなどに加工して保存食に。そうやって作られた食材を使った料理が、宿の食事として並びます。
 手のひらサイズの暮らしを実践する一家。宿に泊まれば、その生き方に触れることができます。

仲間と一緒に改修した五右衛門風呂。特に冬は体をしっかり温めてくれて重宝するそう

仲間と一緒に改修した五右衛門風呂。特に冬は体をしっかり温めてくれて重宝するそう


季節の野菜を育てる洋介さん。子どもたちに田植えや収穫の手伝いをしてもらうことも

季節の野菜を育てる洋介さん。子どもたちに田植えや収穫の手伝いをしてもらうことも



循環を意識して暮らす

 小笠原諸島で海のツアーガイドをしていた洋介さん。結婚後は千葉県にある、子嶺麻さんの母でマクロビオティック料理家の中島デコさんが手掛ける宿やカフェなどを備えた施設「ブラウンズフィールド」で夫婦共に働きます。利用客は多く充実していましたが、次第にもっと一人一人と丁寧に交流したいと思うように。また、東日本大震災後に感じた違和感が拭えないでいたそうです。「水や電気、食料は何も考えずに買っていたけれど、買えなくなる可能性がある。自分たちで自給できることはし、手の届く範囲で人と接する仕事がしたい」。それができる場所に移住しようと探し始め、土佐町にたどり着いたのです。
 渡貫家が取り組むのは、特に「出す物」を意識した暮らし。コンポストトイレで肥料を作り、作物を育て、それを食べるため、自然とシンプルな食事が多くなるとのこと。流す水のことを考え、洗剤や歯磨き粉も使いません。巡り巡って土に還る物が自然環境に負担をかけないよう工夫しています。この生活スタイルと、地域に残る物々交換の文化などにより、お金だけに頼る機会が少なくなったそうです。
 また、暮らすうちに分かったことが。「最初は全て自給自足しようと試みましたが、疲れてしまいました。そして、選択肢があることの豊かさに気付きました」。例えば、今はお湯が必要なら、時間があればまきや炭を、急いでいればカセットこんろを使って沸かします。選択肢の中から状況に合わせて好きな方法が選択できる。その選べる生活に、充実感があるのだと洋介さんは言います。


プロフィール
渡貫洋介さん
小笠原諸島などで海のツアーガイドとして活動後、千葉県のブラウンズフィールドで農業を担当。2013(平成25)に土佐町に移住し、古民家の宿を営む。千葉県出身。49歳

渡貫子嶺麻さん
ブラウンズフィールドで、スタッフのまかない料理を担当。今は宿で、野菜中心の料理を振る舞う。5人の子どもを洋介さんと子育て中。東京都出身。37歳


宿泊費の支払いは、現金でも、宿泊費相当の物々交換でもできるのがユニーク

宿泊費の支払いは、現金でも、宿泊費相当の物々交換でもできるのがユニーク


発酵段階のしょうゆ諸味が入ったたる。しょうゆに加えて味噌、酢なども手作り。小麦も育て、小麦粉や乾麺も自給するそう

発酵段階のしょうゆ諸味が入ったたる。しょうゆに加えて味噌、酢なども手作り。小麦も育て、小麦粉や乾麺も自給するそう


母の影響もあり、マクロビオティック料理の作り方が自然に身に付いたという子嶺麻さん

母の影響もあり、マクロビオティック料理の作り方が自然に身に付いたという子嶺麻さん


宿でのんびり過ごしながら

 移り住む以前から宿を始めることは決めていたそう。子どもたちが親の働いている姿を近くで見られ、多様な人と出会える仕事だからです。「フランス人が以前泊まりましたが、知らない言葉を話す人が目の前にいるって子どもにとって新鮮ですよね」と洋介さん。時にお客さんから刺激を受けながら子どもたちは成長しています。
 宿泊客には、田舎や循環型の暮らしに興味がある人が多く、大半が口コミで泊まりに来るそう。滞在の仕方はお客さん次第。のんびり過ごす人もいれば、まきで風呂を沸かす体験や料理、農業の手伝いをする人もいます。何を見学したり手伝えたりするかは、渡貫家のその日の作業予定によって変わります。朝夕の食事は、子嶺麻さんが作る野菜中心の料理を全員で囲んで味わいます。

旬の食材で作るある日の夕食。オートミール団子やヒジキのパイ包み、ナスとジャガイモのスープなど

旬の食材で作るある日の夕食。オートミール団子やヒジキのパイ包み、ナスとジャガイモのスープなど


20年間空き家だった家を改修。「笹のいえ」の由来は、この家の屋号が「笹」だったことから

20年間空き家だった家を改修。「笹のいえ」の由来は、この家の屋号が「笹」だったことから


家族の成長とともに変化して

 この地で暮らして8年が過ぎ、地域の人との仲も深まったという2人。「お裾分けしてもらったら、お返しをする。ご近所と関わりのある日々が家族にとってありがたいです」
 今一番大切なのは、「子どもたちとの暮らしを無理なく持続させること」。子どもが育つ過程で必要な物ができたとき、選べる幅が広がった渡貫家。買うか、作るか、他の可能性はないか、話し合い、時々で自分たちが心地よい選択をしています。
 宿を通して伝えたいのは、そんな、とある一家の暮らしの形。「私たちのような生き方があるということを知ってもらい、それが何かのきっかけになったらうれしいです」と子嶺麻さん。家族の成長に合わせて変化する宿。その変化を共に楽しむことは、一つのこれからの新しい旅の形なのかもしれません。







むかし暮らしの宿 笹のいえ
土佐町地蔵寺3652
予約・問い合わせは、メールまたはFacebookページのメッセージから
E-mail/info@sasanoie.com
https://www.facebook.com/sasanoie.kochi
※食事はベジタリアン料理ですが、ビーガン料理にも対応できるので予約時に要相談

掲載した内容は発行日現在の情報です。予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。

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