2021.07.01 08:30
魚信 はっぴぃ魚ッチ 聖地実感 風格の66センチ 柏島のイシダイ 弘瀬伸洋【動画】
この時季、私は「底物(そこもの)師」になる。狙うは、荒磯の王者イシダイ。5月下旬、聖地とされる柏島で一発大物を狙った。
なじみの井上渡船に連絡を入れると、「今度こそ、やって(釣って)よぉ」と合言葉が返ってきた。この言葉が、簡単に釣れないことを表している。それでも、船長夫婦の顔を見に行くのが恒例なのだ。
この日の餌は、ウニ、セト貝、赤貝、サザエの豪華4種。私は1回当たりの餌代を6千円以内と決め、余ったら持ち帰って冷凍し、次回のまき餌にして節約している。
「赤バエ」周りの磯に上げてもらい、最近始めたユーチューブ用の撮影機材も万全。仕掛けの道糸は24号、ハリスはワイヤとごつい。
海底10メートルに餌を落とすと、すぐに「コンコン」と魚が餌をつついて竿(さお)先を揺らす。時には、マシンガンのように細かく震える当たりもある。でも慌ててはいけない。これは餌取り。さまざまな当たりの中でも、「竿先を押さえる」という動きが本命だ。
「押さえる」当たりもいろいろ。かすかだったり、暴力的だったり。感覚を研ぎ澄ませ、「これは本命くさいぞぉ」と水中を想像する。
この日のドラマは「ツツン」と、ついばむような前当たりで始まった。「ん!?」。緊張しても、底物に早合わせは禁物。相手の口に針が掛かり、竿が引き込まれるまで待つ根比べだ。焦って合わせれば、針先が硬い歯に当たって貫通せず、バラシの原因になる。そうなると、その魚は警戒し、一日中、口を使わなくなる。
あの日、「ツツン」に続いたのは、竿が無理やり一直線になるほど強引な当たりだった。竿先が海中に引き込まれ、強烈な引きに、がっちり閉めたドラグが悲鳴を上げて糸が引き出される。竿を支えてしゃがんだまま、その重さに立ち上がることさえできない。
ブダイ?
それとも本命?
おまえは誰だ?
なんとか竿を立ててリールを巻いてくると、想像をはるかに超える銀色の魚体が浮かんできた。
「やっばい~!」
思わず声が出る。
66センチ、5・4キロ。
「こんなんおるがや」
パープルがかったシルバーの魚体がとびきり美しい。通称「銀ワサ」と呼ばれる、しま模様の消えた雄だ。
聖地―。その言葉を実感した一日だった。(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)