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2007.05.07 08:00

『本城直季 おもちゃな高知』海辺でロシアのお菓子

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仁淀川河口大橋付近


 初夏を感じさせる日差しの中、海岸線を西へ進む。低気圧の置き土産で、太平洋は台風のようなうねり。風が舞い上げる波しぶきで、景色が白くかすんでいる。
 
 仁淀川河口大橋そばの海岸。仲良さそうに手をつないで歩く人がいた。背中に体と同じくらいの、大きなリュックサックが乗っかっている。
 
 外国人男性と日本人女性のカップル。男性と目が合った。「こんにちは~」と人懐こそうな笑顔。
 
 橋の下で腰を下ろした。彼らは連休を利用して、京都からバスでやってきたそう。男性は黒海に面したロシアの南部出身で、ドイツ在住のスラバーさん。女性は京都で会社員をしているサヤカさん。「彼、ほとんど日本語が分かりません」と言う。
 
 スラバーさんはキャンプ用の小さなガスこんろや鍋を取り出すと、丸めたマットで風をよけながら、水を火にかけた。
 
 手際の良さに見入っていると、細長い体を丸めてニカっと笑顔のスラバーさん。「彼、小さいころから散歩に行くと言っては2、3日、山でキャンプしてたみたいで。本当に野性児なんです」とサヤカさんが言う。2人の共通語はドイツ語。会話をサヤカさんが合間に訳してくれる。
 
 「今、暮らしているところは、寒くて山もない。だから、いつも海や山や太陽を求めている」と野性児。「手つかずの自然がとてもきれいで、生まれ故郷に似ている」と高知を気に入ったよう。「水を得た魚のように、はしゃいでます」と彼女は笑う。
 
 前日、高知にやってきた2人は、バスで桂浜へ行ったが、「キャンプするには人が多くて」とヒッチハイクで寝床を変えることに。すると、すぐに年配の女性が運転する車が止まってくれた。
 
 あそこならキャンプするにはいい、近所だし、と大橋まで乗せてくれたのだそう。「近くのラーメン屋さんに水をもらいに行っても『ああ~、いいですよ~』って。どなたも親切で素朴な感じがいいですね」と2人が目を合わせる。
 
 お湯が沸いた。「紅茶を入れるから飲んでくれるかって、彼が」。通訳してくれるサヤカさんの後ろで、スラバーさんがはにかんでいる。お互いの距離を縮めようとしてくれる彼の気遣いに、うれしくなった。
 
 温かい紅茶とロシアのお菓子をいただく。「今日もキャンプで、あしたから三嶺に登る」という2人。「1年に1週間ぐらいは、自然の中で静かに過ごしたい」とスラバーさん。サヤカさんは「普段はカツカツとハイヒール履いて、普通にOL。でも、知らない場所だから、こんなふうにできるのかも」と開放感を味わう。
 
 紅茶のお礼に、2人を近くのキャンプ場へ案内した。川をさかのぼりながら、少しの間、旅の仲間に入れてもらう。
 
 広い河原に着いた。水辺へと歩いていく2人に手を振る。自然に体を浸していく、優しい旅人との別れが、ちょっぴり寂しく思えた。(飯野浩和)

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