2007.04.02 08:00
『本城直季 おもちゃな高知』途中下車した女の子
ゴゴゴ、ゴトン、ゴトン…。
車輪の鈍い音を聞きながら土電に揺られ、JR高知駅へ。短い距離をちょっとぜいたくした。
駅舎が近づくと、女性の車掌さんが「次は高知駅前。終点でございます」。ポルトガルから来たというかわいい車両は、6年前に駅の南口広場にできた電停へ、ゆっくりと滑り込んだ。
馬のひづめみたいな形の電停は、緑と黄色に彩られて鮮やかな雰囲気。高校生やお年寄りが五人ほど、屋根の下で電車の到着を待っている。
四人連れの家族が、駅前電停を背景に記念撮影しているのが見えた。
兵庫県西宮市から親子3代、女性ばかりの旅行でアンパンマンミュージアムを見に来たそうだ。
「おじいさんもお父さんも家において、女だけの旅。好きなようにできて楽しかった」
おばあちゃんは孫の手を引いてにっこり。
3歳と5歳の姉妹は路面電車が気に入ったようで、「幼稚園の先生に(電車の)写真を見せる」とか。笑顔の絶えない家族は、JRの特急で帰路についた。
◇
高知駅の待合室には、高校野球の中継を見ながら弁当を食べるビジネスマンや、お墓参りに帰省したお年寄り。
そんな大人たちに囲まれて、小さな女の子が2人、ベンチに座っていた。「本当は窪川駅で降りるんやったけど」
小学校2年生と3年生の姉妹。丸亀市から窪川のおばあちゃんの家に行く途中、間違えて高知駅に降りてしまったらしい。
おばあちゃんが待ってる――慣れない土地で、はやる心がそうさせたのか、だいぶ手前で途中下車。
次の乗車時間まであと1時間ほどある。「初めて丸亀から来たから、ちょっと怖かった」と話す妹が、売店に向かった。お土産用のキーホルダーを指さして、笑顔でなにやら姉に話し掛けている。おばあちゃんはきっと心配しているだろうけれど、小さな姉妹は初めての道のりを楽しんでいるように見えた。
◇
先月発表された2006年度の木村伊兵衛賞を受賞した注目の若手写真家、本城直季さん=東京都豊島区=が、高知のあちらこちらを撮影してくれました。
本城さんの手に掛かると、本物の風景がまるで小さなおもちゃのように見えてしまいます。
これから1年にわたり、本城さんの写真と、記者たちの文章で高知の今をスケッチします。(飯野浩和)
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ほんじょうなおき 昭和53年生まれ。東京都出身。東京工芸大大学院修了。昨年出版した写真集「スモールプラネット」(リトルモア刊)で注目を集め、「写真界の芥川賞」とも呼ばれる第32回木村伊兵衛賞を受賞。