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2021.03.19 08:20

いのぐ「3.11」と高知の10年 第3部 宿題(7)今だからできること

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日々の営みを守るため、今できることを。「次」に備えて(高知市上空=佐藤邦昭撮影)

 突然起きる大地震。そこから復興計画をまとめていくうちに、地域はどんどん寂れていった―。

 東日本大震災は、10年後の厳しい現実を「未災地・高知」に突き付ける。

 高知市中心部の海抜ゼロメートル地帯、下知地区の減災連絡会は2018年にまとめた地区防災計画に「事前復興」の視点を盛り込んだ。

 南海トラフ地震に備え、あらかじめ復興の道筋を計画しておく事前復興は、地区の防災リーダーたちが訪ねた東北で得た「教訓」が土台になっている。

 計画の理念は、「災害に『も』強いまち」。今はまず、多彩なイベントを通しての世代交流や、地元企業を巻き込んだ助け合い精神の醸成など、地域のつながりを強めることから始めようとしている。

 同市の潮江南防災連合会も、事前復興を含む地区防災計画に着手した。川上政寿事務局長(53)が言う。

 「現地再建か移転か、というゴールはぼんやりでいい。課題を挙げて議論しておくことが事前復興だ」

 結論を急ぐと、被災する前に地域が割れかねない。「先」の模索だからこそ、地に足を着けた議論が可能になる。

 ■  ■ 

 事前復興は「究極の津波防災」とも言える。一方で、まだ起きていない災害を想像し、集団移転まで考えていく作業は困難も伴う。

 幡多郡黒潮町の出口地区では13~14年、集落の事前高台移転に向け具体的な検討に入った。県内で被災前移転が議論されたのはここだけだ。

 議論は慎重に進んだ。1年余りかけて、町と住民の負担額も提示。移転に前向きな声もあったが、町は最終的に断念した。財政負担が大きな理由だった。

 議論を踏まえ、高台に家を新築した住民もいる。山沖幸喜区長(68)が振り返る。「決して無駄じゃなかった。確実に住民の意識は高まった。今後は『前回の続き』を考えていきたい」

 当時、担当課長だった松本敏郎町長は3月、役場近くに約12ヘクタールの宅地造成計画を公表。出口地区の議論が今につながっている。

 「被災後、短期間に復興計画を仕上げることは難しい。町の将来をコンサルなどに任せることになってしまう」。松本町長は事前復興の重要性を強調する。

 ■  ■ 

 県も2月、市町村が策定する事前復興まちづくり計画の指針づくりに入った。高台造成や公共施設などの移転先を検討する際のポイントを盛り込む予定だ。

 「高知の人に申し訳なく思うんです。良い復興の姿を示せなくて」。10年で人口が激減した宮城県石巻市雄勝(おがつ)町で、大学研究員の阿部晃成さん(32)が言う。

 未曽有の被害を受けた東北からの叫びを、「次」が迫る私たちがどう聞くか。

 あと、どれほど時間が残されているかは誰にも分からない。ただ、東日本大震災から10年が過ぎ、なお考えておくこと、準備しておくことが山積みになっていることははっきり見える。

 いつか必ず起きる南海トラフ地震。犠牲者が一人でも減るよう、今だからできることをやっていこう。明日をいのぐために。(報道部・大山泰志)

 =シリーズおわり

 ※いのぐは、古い土佐の方言で「しのぐ」「生き延びる」の意味。高知新聞は今後も、地震から命を守る取り組みを県民読者と一緒に考えていきます。

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