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2021.02.22 08:39

ただ今修業中 ハンター・佐々木翼さん(36)香美市

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「猟は人の暮らしを守るために必要な仕事」と語る佐々木翼さん(香美市土佐山田町)

命懸けの世界伝える
 午前9時半、高知県香美市土佐山田町の山中。雑木の間に、近くの民家の屋根が見え隠れする。
 
 獣道をしばらく進むと、落ち葉の間にイノシシのくくりわながあった。掛かっていた獲物は、逃げられた様子。「今日もだめか。まだまだ腕が足りないなあ」と苦笑いで悔やむ。
 
 本職は、高知商業高校の英語教諭。休日などに山に分け入り、狩りをしている。学校では、同好会「ジビエ商品開発・販売促進部」の顧問も務める。「猟師はやるか、やられるか命懸けの世界。自分たちが活動できる背景には、そんな猟師の苦労がある」。生徒には実感を込めて、そう伝えている。
 
 ◆
 
 今は亡き祖父、稔(みのる)さんも猟をしていた。実家の食卓には再々、シシやキジの肉が並んだ。小学3年生の頃に何度か、祖父のキジ猟に付いていった。飛ぶ鳥を撃ち落とす姿が格好良く見えた。
 
 山田高校、高知大学を卒業後、臨時教員として5年間、山間部の学校などで「のんびり」勤務。だが、2012年に来た今の職場は「感覚が違った」。当初は、生徒との接し方にも悩む日々で、「自分ならではの強みを見つけたい」と考えるように。そんな折、野生動物の食害を伝える高知新聞の記事を読み、幼い頃の憧れを思い出した。稔さんの猟仲間で、実家の近所に住む西岡幸雄さん(81)のわな猟に同行させてもらった。
 
 1度目は獲物がいなかったが、土のにおいや落ち葉を踏む久々の感触がうれしかった。
 
 2カ月後。わなに1メートルほどのイノシシが掛かっていた。逃げようと暴れるイノシシを、西岡さんが銃で仕留めた。「野生の命をいただく」作業を、しっかり目に焼き付けた。
 
 14年にわな、翌年に銃の狩猟免許を取得。西岡さんに弟子入りし、山の歩き方、わなの仕掛け方をたたき込まれた。
 
 深い藪(やぶ)をこぎ、道なき道を行く。蛇に驚かされ、蚊の大群に悩まされ…。山の地形が頭に入っている西岡さんは歩くのが速く、付いていくのがやっと。山中で3時間ほど迷子になったこともある。捕獲した50キロほどのイノシシを2人で担ぐなど、毎回、疲労困憊(こんぱい)だ。それでも「畑を荒らされていた人に『ありがとう』って言ってもらうのがうれしくて」、猟を続けた。
 
 14年の暮れ、自分一人で仕掛けたわなに2頭のイノシシが掛かっていた。西岡さんに「やってみいや」と言われた。緊張で手が震えた。暴れる1メートルほどのイノシシ(40キロ)を、やりで仕留めた。「寒さを忘れるほど無我夢中。高揚感がすごかった」。持ち帰った肉を煮て、家族と一緒に食べた。「みんな喜んで、残さずに食べてくれた。これが供養だと感じた」
 
 ◆
 
 学校の同好会では、生徒がシカ肉を使ったカレーライスパンやジャーキーなどを商品化。イベントなどで販売している。年に2度、生徒と猟師の交流も行う。
 

好きな言葉

 「自分の強みを生かした仕事ができていると思う」。これまでにイノシシやシカなど約30頭を捕獲。少子高齢化で里山から人の姿が減る中、鳥獣被害は増えていくとみる。「人の暮らしを守るためにも、ハンターは必要。僕より若い世代も増やしたい」ときっぱり。思い悩んでいた日々は、もう遠い。
 
 写真・森本敦士
 文 ・乙井康弘

高知のニュース 香美市 ただ今修業中

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