2021.01.06 08:36
「悪魔の飽食」の記録(1)ベストセラー生んだ秘密の暴露 今も残す証言生テープ

「証言を聞くのが苦しい。なんで俺が聞き手なんだ。そう思うことがよくあった」。「悪魔の飽食」取材の記録を語る下里正樹さん(高知市内の自宅)
ある録音テープを聴かせていただいた。ベストセラー本「悪魔の飽食」の執筆に使われた音源だ。
―マルタ(丸太)に赤痢菌を飲ますわけですか?
証言者「そう。私が生菌を飲ませる。予防接種をしたマルタと、そうでないマルタ。何人かに飲ませて比較する。3日もすれば濃血便が出て、かわいそうなことになる」
―人体を使って実験するわけですね?
「そう。転帰(死亡)したとなったらすぐに解剖。解剖にもたくさん立ち会った。現地は大変寒い。内臓から湯気が上がった」
―仲良くなったマルタもいた?
「いました。賢い男もおりましたよ。私の妻にと、シナ靴を編んでくれたマルタもいた。中秋の名月の頃になったら思い出す」
―人体実験をすることに罪の意識は?
「当時はなかった。すでに死んだ人間だと思えと、徹底的に教育された。そらぁ、はぁ(長いため息)」
◇
「悪魔の飽食」は1981(昭和56)年、大手出版社から発刊されたノンフィクション作品だ。販売部数は翌年発刊の第2部と合わせ、当時だけで280万部を超えた。
「悪魔」とは旧日本陸軍731部隊を指す。日本支配下の中国東北部(旧満州)・ハルビン市郊外で、マルタと称した外国人捕虜たちを日々監獄に運び、閉じ込めて実験材料とし、細菌投与、解剖、細菌兵器や毒ガスの使用実験といった行為を繰り返した。
1981年当時、大半の日本人は、部隊の存在すら知らなかった。作品は戦中戦後、知られることのなかった歴史を世に出した。
著者は作家の森村誠一さん。ただ、作品を厳密に語るならば森村さん単独の取材・執筆ではなく、1人の記者との共同作業(ペアズワーク)だったことは意外に知られていない。…