2022年 06月30日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2021.01.03 08:50

追跡・白いダイヤ~高知の現場から~第一部 採捕(1)シラスウナギの光と闇

SHARE

 人々の欲望引き付け

シラス漁の解禁日。四万十川河口に集魚灯の光がきらめいた(昨年12月7日夕、四万十市名鹿から撮影)


 昨年12月7日の日没直後。高知県四万十市名鹿(なしし)の高台に上ると、目の前に幻想的な光景が広がっていた。

 四万十川の河口に散らばる100隻以上の小型船。それぞれが集魚灯の光をきらめかせ、暗い水面を黄緑色に照らしている。この日はニホンウナギの稚魚、シラスウナギの漁の解禁日だ。

 風は冷たいが緩く、かすかな波音が耳に届く。船が放つホタルのような光は、多くがその場にとどまり、一部はゆっくりと海に向かって流れる。新しい光が上流の暗闇や近くの漁港から現れ、隙間に入り込んでいく。

 岸辺に降りると、陸上組も獲物を狙っていた。背丈を越えるアシの間や護岸、砂利の浜、岸壁…。至る所で集魚灯の発電機が低くうなる。

 しかし、この日の漁は不調。声を掛けるたび、「だめだめ」「まだシラスの顔も見ちょらん」。素っ気ない返事が返ってきた。

 そのうちの一人、目出し帽の男性が少し離れた岸辺を指さした。「記者さんよ、あそこは行かれんで」

 20メートルほどの間隔で並ぶ白い光。じっと目をこらすと、黒い人影も見える。

 「漁にえい場所は、だいたいヤクザがおる」「向こうも場所取りしようけん。関わらん方がええで」

 こんな声も聞いた。「“一升瓶”と呼ばれるヤクザが浜にプレハブ置いて、シラスを売れと構えちょった。ほんの数年前で。このご時世にあり得んろ?」「変な名前? 一升瓶で殴りかかるけんよ。ドスで脅されたもんもおる」

 ■ 

 少し離れた岸壁には、のんびりとした雰囲気で海面をのぞく男性がいた。

「白いダイヤ」と呼ばれるシラス。1キロ250万円で取引されたことも(南国市久枝の県しらすうなぎ流通センター)


 「さあ辛抱や。採れたらあんたにごちそうしちゃろかねえ」

 水に差し込んだ水銀灯の、周囲3メートルほどが明るくなっている。

 水面で、メダカを細長くしたような小魚が小刻みに動いた。思わず「あっ!」と指さした記者に、男性が笑って「違う違う。ウナギはもっと長い。5、6センチ」。その後も、手のひらサイズの魚が現れたり、50センチはあるフッコ(スズキ)が身を翻したりしながら、時間が過ぎていく。

 「ここは、あんまり来んかも。でも、ヤクザのおらん、怖くないところでやりたいけん」

 ダウンジャケットに冷気がしみこみ始めた午後7時すぎ。「んっ」と声を出した男性が素早く手を伸ばし、直径15センチほどのすくい網で水面をさらった。「よっしゃ!」

 黒い網の中をのぞくと、全長5センチほどの半透明のそうめんのような生物が「S」の字でくねっている。

 これが、シラスウナギ。遠い南の海で生まれ、長旅を経て、満ち潮に乗って日本の川に上ってくる。

 ■ 

 近年、シラスの採捕量は激減している。

 高知県の統計によると、県内では1980年度に約7トンに上ったが、2018年度は過去最低の78・5キロまで落ち込んだ。この傾向は全国共通で、2013年には環境省がニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。

 採捕量に反比例するように、取引価格は高騰した。県内の2017年度の平均単価は正規ルートで1キロ当たり250万円。1匹500円もの値が付いた。重量当たりの単価が銀を超え、金を上回った時期も。「白いダイヤ」と呼ばれるゆえんだ。

 光が強ければ強いほど、影はより濃く、深くなる。高額なシラスは人々の欲望を引き付け、全国的に密漁や闇取引が横行。暴力団の影も見え隠れしている。

 「高知は全国一、漁獲が安定しちゅう。実際は県の統計の10倍近くは採れる」「闇ルートで県外に流せば、1キロ400万円の時も」「1カ月で2500万円を荒稼ぎした」「高知から台湾にも運ばれゆうで」

 県内の現場を歩くと、そんなぎらついた話がたくさん聞こえてきた。

 謎の多いシラス漁と流通。その実態は―。取材班は「白いダイヤ」を取り巻く光と闇の世界を追った。(高知新聞取材班)

 ◇ 

 連載は3部構成で、第1部は15回程度を予定しています。

高知のニュース 四万十市 白いダイヤ

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月