2016.03.19 22:58

高知県立大学と津野町が関係深化へ 住民と学生が未来語る

地区ごとに自慢や課題を語り会う住民と学生(写真はいずれも高知県高岡郡津野町役場)
地区ごとに自慢や課題を語り会う住民と学生(写真はいずれも高知県高岡郡津野町役場)
 大学と地域、大学生と地域が協働、共生の関係を深める上で、一つの大きな基礎になるのが「連携協定」だ。高知大学や高知県立大学、高知工科大学など県内の高等教育機関も、日ごろから培った信頼関係を基に自治体や企業などと協定を結び、互いの得意分野を生かして共同研究したり、フィールドや技術を提供し合ったりとパートナーシップを深めている。そんな中、「包括連携協定」を結んでいる高知県立大学と高知県高岡郡津野町が先ごろ、初の取り組みとして「地方創生推進」を冠するワークショップを共催した。大学と地域の関係をより深化させるべく議論した、濃密な時間の様子を抄録する。

課題ややりたいことについて、討議内容を発表する学生たち
課題ややりたいことについて、討議内容を発表する学生たち
 ワークショップのテーマは「津野町と高知県立大学の連携による地方創生を目指して―いっしょに話し合おう!津野町の未来!!」。既に大学生が入っている地区、今後入る予定の地区も含め、4地区の住民と学生ら合わせて約60人が津野町役場に集まった。

 高知県立大学の地域教育研究センター長を務める清原泰治教授は「津野町さんにはこれまでにも、実習の受け入れやインターンシップでお世話になってきたが、今後さらに、継続的に地域に入っていくような関係をつくりたい」と狙いを語る。

 ワークショップを先導したのは、地域の魅力発掘や人材育成などに携わる会社「わらびの」(香美市)の畠中智子代表。参加者は地区ごとに分かれ、まずは住民と学生が2人一組になって、津野町のイメージや従来の地区での取り組み、地区に入ってやってみたいことなどをインタビューし合った。それを基に、地区の課題や課題解決のためにできそうなこと、したいことを班で抽出し、発表していく。

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 「嫁が来ん」「若者がいない」「棚田の保全が大変」「移動手段がない」―各地区の課題は深刻だ。

 そんな中、「質の高い合コンが行われています」と発表したのは郷地区のグループ。過去2年間に計79人が参加した婚活イベント“郷コン”では計26人がカップルになり、うち4組が結婚に至ったという。豊かな自然や食を生かして、さらなる充実を図ろうという意見に拍手が起きた。

 郷地区の討議に参加した社会福祉学部の兵頭七海さん(19)=愛媛県鬼北町出身=は今回、1年生で唯一の参加。必修の「地域学実習Ⅰ」で津野町白石地区の地域情報の収集などを行ったのを機に、今回のワークショップにも興味を持った。

 「白石以外で何が行われているかを知りたかった。いろんな視点の取り組みを知ることができ、感覚がほぐれた」と感想を話す。

 地域福祉や地域のつながりを大事にしたいと福祉の専門職を志している。学生としてどんな活動をするかについて「これまでは傾聴ボランティアが大事だと思ってきた」が、ワークショップで「移動の便がない。移動スーパーが来ても、捕れたての魚はないし、買いたいものではなく、買えるものしか買えない」という住民の生の声を聞き、新たな問題意識も芽生えた。

 2年生からの実習では、自ら企画立案した活動が求められる。

 「今までは、地域がしてほしいことに対して受け身だったけど、これからは地域がしたいことを知った上で、自分のしたいことをこちらから発信したい。もっと地域を知りたい」。そんな気持ちを強くしたという。

 郷地区では2016年春、集落活動センターの拠点施設「奥四万十の郷(さと)」がオープンを迎える。施設を運営する郷地区活性化委員会の大地隆博会長は、「若い人に地域の情報を発信してほしい」と期待を寄せた。

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 棚田を生かしたオーナー制度やキャンドルイベントなどに取り組む貝ノ川地区の協議では「地域で運動会をやりたい」「他地域とも交流したい」と次なる取り組みの構想が湧き、他地区の住民からも賛同を得た。

 既に学生との協働の実績がある白石地区からは「共に造ったピザ窯を生かして、一緒に料理を作りたい」「田舎料理も大切にしたい」「観光プログラムをつくりたい」などの声が上がった。

 四万十川の源流点にほど近い船戸地区からは、サルやイノシシなどの食害に対し「狩女(かりガール)を増やす」「ジビエ料理を研究する」などのアイデアが飛び出した。

 2016年春、高知県立大学社会福祉学部に入学する谷脇英恵さん(18)も船戸地区住民として協議に参加し、「自分の地域を見直したい」と刺激を受けた様子。

 学生たちは、地区を問わず異口同音に「企画段階から参加したい」「取り組みの質を上げたい」と熱のこもった言葉を口にした。

 津野町商工会会長で、谷脇さんの父、幸秀さん(53)は「学生たちから『地域になじみたい』って気持ちが伝わってきて、パワーをもらった。これから一緒に活動できれば、花が咲いたように地域が明るくなると思う」と期待する。

 津野町企画調整課の岡崎光明課長は「学生が来てくれると、地域の人が笑顔になる。これは、行政にはできないこと。笑いながら地域の課題を考え、解決策を見つけたい」と連携の意義を語った。

 清原教授は「盛り上がってもここで終わる可能性もある」と冷静な見方も示しつつ、住民に対して「企画段階から学生が入る意味は継続性。繰り返し巻き返し学生が入り、地域とともに育っていきたい」と呼び掛けた。

 この日出た企画の“芽”がどう育つか。新年度以降の活動の広がりに期待が集まる。

高齢者と若者の共生を 田中きよむ教授講演
 ワークショップでは、住民と学生が地域ごとに分かれて討議する前に、社会福祉学部の田中きよむ教授が「住んでよかった・住んでみたいまちづくり―住民主体と域学共生の地域づくり」と題して基調講演した。

 田中教授は、高齢化が進展する中での社会の在りようとして、従来の「高齢者が支えられる地域」から「高齢者が支え、若者が共生する地域づくり」へと発想を転換する必要性があると強調。

 地域で高齢者らが孤独化、孤立化していく要因として、誘いがない▽周囲が敬遠する▽ニーズや好みに合う活動内容がない▽集まる機会自体が少ない▽移動手段がない―などを挙げ、さまざまな“垣根”を取り払う必要性を指摘した。

 高知県内各地域で大学生と住民が一緒に取り組んだ防災や見守りのマップ作りや、高齢者から子どもが昔の話を聞き取ったエピソードなども紹介。「高齢者しか体験していない昔の話を聞くことは、現代を生きる子どもにとって貴重な体験になり、地域の新たな発見にもつながる。高齢者にとっては、普段接することのない子どもたちとの触れ合いが楽しみになる。昔のことを話す楽しさがある」と、異世代が触れ合う意義を語った。

 その上で住民主体のまちづくりについて、「一人一人の苦しみや悩み、喜び、楽しみ、生きがいに寄り添い、世代の違いや病気の有無などの垣根を越えて集まり、その輪を広げながら、家族のようなまち、むらを目指す」ことが重要だとし、若者のパワーや高齢者が持つ暮らしの知恵など、「弱みと強みを提供し合う関係性」が必要だと説いた。

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カテゴリー: 社会教育大学特集教育


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